一人の高校生小説家が脚光を浴びている。15歳の時に書いた『探偵はぼっちじゃない』(KADOKAWA)を出した坪田侑也さん(17)。作品は、万城目学さんらを世に出したボイルドエッグズ新人賞受賞作で、小説と向き合う熱情を投影した長編ミステリーだ。
小学2年の時、児童文学作家・はやみねかおるさんの『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズを読んだ。「トリックが暴かれた瞬間に全身に衝撃が走った。それが僕の出発点です」
中学生になると毎年、夏休みに自らテーマを決めて取り組む課題があった。「迷わず小説を書くことを選んだ」。中学3年の夏、集大成として本作を書いた。同級生に勧められて応募し、見事に受賞。改稿を経て今年3月末に刊行された。
物語は中学3年の男子生徒・緑川と新米男性教師・原口の2人の視点で描かれる。緑川は夏休みに謎の同級生・星野から一緒に推理小説を書かないかと誘われる。一方、原口は自殺サイトに自校の生徒が登録していると知り、登録者が誰なのか突き止めようとする。それぞれの謎が交錯した時、物語が大きく動き出す。
繊細な心理描写も光る本作は、中学生パートと教師パート、さらに作中作パートが絡み合う構成だ。選考したボイルドエッグズ社の村上達朗社長は「弱冠15歳が、こんなにも複雑な構造の小説を書けたことに驚いた」と話す。
現在は慶応義塾高校の2年生。約180センチの長身で、今春までバレーボール部に所属していた。受賞後の改稿では、勉強と部活と小説の掛け持ちに苦労した。「毎日ヘトヘトでしたが、自分を突き動かしたのは本を出せる誇りでした」
年齢が注目されるが、本人は「若さというバリューが使えるのは、あと数年余り。頼らないよう力をつけたい」。友達が携帯で時間をつぶす時、小説を読んで糧にしている。今年2月には村上社長に誘われて芥川賞・直木賞の贈呈式に出向き、こう決意した。「いつか同じ場所に立ちたい」(宮田裕介)=朝日新聞2019年6月29日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 大好きだった 「七帝柔道記Ⅱ」の執筆で増田俊也さんが助けられた「タッチ」と「SLAM DUNK」 増田俊也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社