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過去への復讐、目指す先には 暴力団専門ライター・鈴木智彦さんインタビュー

鈴木智彦さん

安倍政権支持の裏 侵略・敗戦のコンプレックス

 かつての日本は、暴力団という「悪」にもそれなりに居場所を与え、甘い汁を吸わせつつも、その力が過大にならないようコントロールする、という手法をとってきた。

 「しかし、現在はそうしたグレーゾーンを認めるという流れではまったくない。ヤクザはかつてないほど弱体化している」と鈴木さんは話す。

 最近、暴力団関係者がタピオカドリンクの店を経営しているケースを記事にした。読者からは「悪事に手を染めているわけではないから、別にいいのでは」との反響もあった。

 「実は私自身もそう思うが、警察に言わせれば『暴力団の資金源になっているから問題だ』ということになる。全国の暴力団排除条例は、暴力団員が一般人とビジネスすることをほぼ全面禁止している」

 世間を見渡しても、「コンプライアンス」という言葉に象徴されるように、あいまいさを許さず、「善と悪」「味方と敵」をはっきり区別し、悪や敵は徹底的にたたく。そんな時代の流れが強まっており、民主党政権時代を「悪夢」と断定し、野党を激しく攻撃する安倍政権もその流れに乗っていると感じる。

 「その流れは止めようがないかもしれないが、暴力団を徹底的にたたき、追い詰めたことが、シノギ(資金源)を失ったヤクザたちがアワビやウナギの幼魚、カニなどの密漁・密売に続々と参入することにもつながった」

 普通の人が口にする食べ物にもヤクザが関与する時代になったことを潜入取材によって明らかにしたのが『サカナとヤクザ』だった。暴力団という病の原発巣を強制的に取り除こうとしたら、逆に体全体に散らばってしまった。鈴木さんはそんなイメージを抱く。

 長年、暴力団を取材してきて、一般人、ヤクザを問わず人間の行為の動機には「自らの過去に対する復讐(ふくしゅう)」という面があると思うようになった。

 最近の若いヤクザには、いじめられたり引きこもったり、という経験のある人が増えた。彼らの振るう暴力は元不良たちよりもすさまじい。居場所のない若者たちが、暴力団の看板を背負うことで屈辱的な過去と決別し、コンプレックスやルサンチマン(うらみ)を発散する。

 「安倍政権が支持される理由の一つも『侵略と敗戦』という日本の過去からの決別と復讐を望んでいる人々が少なくないからではないか」

 安倍晋三首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法の改正を目指す。強硬な対韓国外交の背後にも「過去の歴史に配慮するのはもう終わりにする」という強い意思が見える。

 多くの暴力団員が殺されたり人生を棒に振ったりする末路を見てきた。ヤクザは大胆な過去への復讐を目指し挫折するが、堅気の人間は過去を断ち切れずに背負い、未来に向けてとぼとぼと、かっこ悪くもまっとうな道を歩んでいく。

 日本はどちらを選ぶのか。(太田啓之)=朝日新聞2019年7月17日掲載