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「野党が政権に就くとき」書評 権力から遠い今こそすべきこと

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月17日
野党が政権に就くとき 地方分権と民主主義 著者:中野 晃一 出版社:人文書院 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784409241257
発売⽇: 2019/06/20
サイズ: 20cm/251p

野党が政権に就くとき 地方分権と民主主義 [著]中野晃一

 歴史を振り返ってみて、地方分権という課題はしばしば語られるが、実現した例はそれほど多くない。とくに中央集権的な国家において、権力を持つ中央政府が、自らの権限を縮小する分権化に易々(やすやす)と賛成する事態は想像しにくい。政権政党にとっても、分権化は自らに抵抗する勢力を地方に生み出すことにつながる危険性がある。
 にもかかわらず、例外的に地方分権改革が進んだ例がある。1980年代におけるフランスと90年代半ば以降の日本である。中央集権的な国家として語られることの多かった両国で、なぜ分権化が進んだのだろうか。その鍵は政権交代にあり、長らく野党にあった政党が(この場合、いずれの国も社会党である)政権に就いたことが大きなきっかけとなったと主張するのが本書である。
 地方分権化はある意味で「野党的」な政策である。権力の座にある与党にとっては、必ずしも旨味(うまみ)のある政策ではなく、むしろ配分する資源のない野党こそが注目する政策課題である。長く権力から退けられた野党が、中央政府の権限を抑制し、市民の政治参加を拡大することを訴え、その上で政権に就いたときにはじめて実現すると言える。本書はその政治過程を日仏両国の比較から詳述する。
 思えば日本の場合も、95年に地方分権推進法を制定した村山富市内閣において、官房長官の五十嵐広三は元旭川市長であり、大蔵大臣の武村正義は元滋賀県知事であった。革新自治体の取り組みが政権交代を機に政治課題化し、多くの自治体首長経験者が権力中枢にいたことで、はじめて動き出したのが地方分権改革だったのかもしれない。
 今日、野党の存在意義や、政権交代の必要性が、あらためて問われている。権力から遠ざかっているからこそ、地域社会の多様な声により真摯に耳を傾けることが必要と説くなど、現代にも示唆するところの大きい一冊であろう。
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 なかの・こういち 1970年生まれ。上智大教授(比較政治学)。原著は英語。著書に『私物化される国家』など。