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シライケイタさん「BIRTH×SCRAP」インタビュー 「いつか見てろ」空に誓う

シライケイタさん

 「念ずれば花ひらく、という言葉が好きですね。思い続けていれば、人は行動しますから」
 男性5人の劇団温泉ドラゴンの代表。劇団内外で14本の作品を書き、演出家、俳優としても活躍。本書は初の戯曲集だ。「オレオレ詐欺」でだまそうとして電話した相手が、生き別れの実の母だったという「BIRTH」(2011年初演)、終戦後、大阪砲兵工廠(こうしょう)の跡地で鉄くずを拾って売りさばいていた在日朝鮮人の「アパッチ族」を描いた「SCRAP」(17年)を収めた。
 23歳で蜷川幸雄演出の舞台「ロミオとジュリエット」のパリス役でデビュー。だが、その後、なかなか芽が出ず、時々、依頼がくるCMをこなしながら、工事現場で働く日々。鉄骨の隙間からのぞく青空を見ながら、「いつか見てろよ。夢をかなえ、この境遇から抜け出してやる」と誓った。でも、同世代の俳優たちの活躍を見るにつけ、「行き場がない気がして、焦っていましたね」。
 自分を変えたくて30代半ばから戯曲を書き始めた。在日、生と死、家族、個と集団……関心のあるテーマを書き始めた。「扉が開き、また次の扉が開く。ちょっとずつ世界が広がっていく手応えを感じます」
 「BIRTH」は、自身の母が、オレオレ詐欺にだまされそうになった体験が元にある。男の声で「妊婦をはねた」と泣きながら電話があり、母は息子と思い込み、オロオロしたという。「子を思う親の愛ってすごいなという実感を込めた」
 かつて希望を込めて見つめた空。作品でも空を見上げる場面を描くことが多い。「演劇を作る上で大切なことは目に見えないものをどこまで信じられるかってこと。お客さんと劇場空間を飛び越えて、空や星、宇宙を感じ、想像力の翼を広げて飛べるロマンを信じたいんですね」 (文・写真 山根由起子)=朝日新聞2019年8月24日掲載