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フルポン村上の俳句修行 プレバトをきっかけに俳句を始めた人との出会い

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

 「プレバトのことを語ると長くなるんですけど・・・・・・」と話し始めた神山刻さん(42)。「初回から見ていて、いきなりある日、村上さんが出てきてですね、マスクの句(テーブルに君の丸みのマスクかな)が今まで出てきた俳句と全然違ったんですよね。男性目線からの、ちょっと女性に対するフェチシズムみたいな。あれが評価されるような軸が俳句にあるんだ、って思ったんです。その後に、また村上さんの『卒業の駐輪シール並ぶ朝』っていう句にすごい驚きまして。高校卒業の時にまったく同じことを考えたことがある!って思ったんですね。(番組の中で)自分の句を査定されてるみたいな気分で、テレビの前で死ぬほどドキドキしてました」

 それまでアニメを見たり映画を見たり、インプットする趣味ばかりだったので「アウトプットの趣味がやりたい」と思っていた神山さん。「これはなんかちょっと俳句をやらなきゃいけない」と思い立ち、まずは松山市が運営する俳句投稿サイト「俳句ポスト365」に投句するようになったと言います。「1回に7000~8000句集まって、夏井いつき先生が全部見て、天・地・人(の各賞)を発表するんです。そこで結果が出始めてから勘違いし始めたというか(笑)。もうちょっと勉強しようかな、と思ってリアル句会に出始めました」

真芯句会を仕切る神山刻さん

 さまざまな句会に出たり、賞に応募したりして技術を磨いていった神山さんですが、「思った以上にできなかった」のが、お題に対してその場ですぐ詠む「即吟」の句会だったそう。同じく即吟を苦手としていた結社「街」の会員・谷村行海さん(24)と一緒に修行しようと、昨年12月に立ち上げたのが今回の真芯句会です。最初は3人だったメンバーも12人に増え、平日の夜、学校や会社帰りに来られる人が気軽に参加しています。

 8月8日午後7時半、村上さんが東京・新宿のカフェの個室を訪れると、集まっていたのは神山さんと谷村さんを含めて20~30代を中心にした若者9人。自己紹介では村上さんが「プレバト!!」で披露した俳句の中で好きな句を挙げるなど、歓迎ムードが漂います。

 この日はそれぞれがお気に入りの本を持参していて、その中からお題を決めることになっていました。村上さんオススメの本は『星の王子さま』。「超有名なんですけど、大人になってもう一回読み直したら、思ったよりもっと良かった」というのが理由ですが、内容はさておき、ここでは適当な数字を言ってページを決め、題となる漢字を拾い上げます。「98ページにある6番目の漢字」で「見」の字を使った句を詠むことになりました。

 「ああ~」というため息まじりの声が上がり、村上さんも頭を抱えます。「(極力むだな言葉を省く)俳句であんまり『見る』って使わないじゃないですか。そうなってくると『見』が入った熟語を探すしかないんですけど・・・・・・」。制限時間の10分が過ぎても「ちょっと全然できてないです。ごめんなさい。がんばります!」と村上さん。「途中で1分くらい何も考えられず、あきらめてる時間があった」と言いつつ絞り出したのは、以下の2句でした。(原文ママ)

・月代(つきしろ)や味見に小さく開く口 ※月代=月の出る頃に空が明るくなりかかっていること
・見せしめのごとく月だけ大きくて

 真芯句会の特徴は句をふせんに書いて回していき、いいと思った句(特選)には○印、弱点はあるけれどいいと思った句(並選)に△印をつけます。「僕らの句会は指導者クラスの人がいないので、得点の多い少ないではなく、句の弱点を話し合うことを主眼にしているんです。議論するのが一番の上達の近道かなと思ってるので」と神山さん。句会でよく使う短冊ではなく、ふせんにしたのは「(余白に)○△を書きやすくするため」(谷村さん)とのことです。

 神山さんの「見られたくなき顔で金魚を見てをりぬ」、谷村さんの「ぶろぶろと見世物小屋の扇風機」がそれぞれ8つの○と△を獲得した一方、議論になったのは金城果音(かのん)さんの句でした。

見習ひのしきりに汗を拭きなほす 果音

黒岩徳将:なんの見習いか言ってないのがいいなと思って。限定できないですよね、寿司職人見習いなのか、大工見習いなのか。ただひっくるめて「見習い」っていうものが、そんなに仕事していないのに汗を拭くことしかできない感じがあって。限定してないことでちょっと嫌かなって言う人はいると思うけど、僕はそれでもおもしろいんじゃないかと思いました。「拭きなほす」「しきりに」にしつこい感じが出てます。

神山:村上さんは何の見習いだと思いました?

村上:僕は勝手に、飲食店の新人っていうイメージでした。まさにこの前ご飯を食べに行ったら、新人の人が本当に手持ちぶさたで、やることがないけど一生懸命やってる感を出したいから汗を拭いてるって感じで、おもしろいなって。

神山:「しきりに」と「なほす」が情報としてはかぶってるかな、って思ったんですね。例えば「○○の見習い汗を拭くしきり」とかにしたら情報が入るかなと思ったんですけどね。

金城:個人的には、メイドカフェで立ってるメイドさんのつもりです。

神山:「メイドカフェ見習い汗を拭くしきり」もいいかもしれない(笑)。

 村上さんの「見せしめのごとく月だけ大きくて」の句には3つの△が付き、「文語か口語か表現を統一した方がいい」という意見が。同じく△3つの「月代や味見に小さく開く口」 は、「正体の知れないものの味見に挑戦していく感覚がおもしろい」という一方、「語順はこれでベストなのか。『小さく』を最後にもってきて目立たせた方がいいのでは」というアドバイスが寄せられました。

 続く第2ラウンドでは、神山さんが事前に用意した「変な季語」で詠みます。発表されたのは「毒きのこ」。「見」と違ってキャラが立っていて、村上さんも10分以内に3句作って提出しました。

・永遠のはじまりとして毒きのこ(△1つ)
「毒茸にはパルプンテ的な魔力がありそう」(西生ゆかりさん)

・毒きのこ特集終わり夕支度(○2つ、△2つ)
「自分の生活に全く関係ないなと思ってるこの人の雰囲気、主人公感がいいなと。夕支度って俳句にあまり出てこない言葉でいいなと思いました」(黒岩さん)

・毒きのこ色で登場遅刻の子(△2つ)
「ギリギリに起きて、家にあるものを適当に着てきたらピンクと赤と紫みたいな色になったというのが想像できました」(西生さん)

 藤本春風さんの「ムーミンの持っていそうな毒きのこ」、黒岩さんの「雨粒のぐぐいと曲がる火炎茸」などの秀句が出る中、参加者全員の○または△を集めて句会を締めくくったのは、西生さんの句でした。

東スポに包まれてゐる毒茸 ゆかり

金城:めちゃくちゃおもしろくないですか。間違えておじいちゃんとかが採っちゃったのかな、みたいな。毒茸だけどちょっとホンワカな気持ちになりました。

神山:だまされやすい人なんでしょうね。毒きのこって分からないで包んでるし、東スポもふつうに買ってるし、みたいなね。

村上:おもしろいし、皮肉じゃないですけど「新聞なんてのはこういう風に使うのが一番役立つ」って感じが出てますよね。新聞に何を包ませたらおもしろいかっていった時に毒茸はおもしろいなっていう。

寺沢かの:そこで選ぶ新聞が東スポ、っていうのがまた毒茸とよく合ってる。ほかの真面目な新聞だと毒茸が効かないっていうか、東スポくらいがちょうどいいですね。

句会後、村上さんと神山さん、谷村さんが鼎談

――神山さんは村上さんがきっかけで俳句を始めたので、そのあたりからお話ししますか。

村上:本当ですか? じゃあ始めて2年ちょっと?

神山:2年2カ月ですね。

村上:でも、(俳句同人誌「円錐」の新鋭作品賞を受賞した20句を)見させていただきましたけど、全部おもしろい。魅力のある俳句ですよね。

神山:これとかどうですか、「シエフを呼ぶゐもしない蚊をうつやうに」。

村上:すごくよかったですよ。あと「啓蟄のエクレアがある野菜室」も。野菜室に入れないじゃないですか、エクレアって。でも、野菜室に野菜以外のものを入れてる時あるよな、みたいな。その変さ、違和感さがいいなと。

歌人としても活躍する谷村行海さん

――実はもう一人の主宰者の谷村さんも、村上さんと同じく短歌出身という共通点があるんです。

村上:今も短歌はやられてる?

谷村:いま短歌2の俳句8くらいで、ほぼ俳句ですね。地元の岩手に俳句甲子園じゃなくて短歌甲子園って大会があって、それに出場するために高校1年生から短歌を始めました。でも頭の中だけで作ってる短歌が目立つようになってしまって、俳句の方が実感のある作品がかなりあるなと思って。自分はイメージよりも実感の方が好きだったので、俳句の方に移っちゃった感じです。村上さんの句は「八月の海を置き去るバイクかな」が好きなんですけど、短歌と俳句を作る時、頭の使い方ってどうなってますか?

村上:いや、僕も正直あんまり分からないんですけど。偉そうだし、短歌と俳句の差も分からないですけど、短歌は自由度が高いし、映像と事柄の間くらいを行くんですけど、俳句はかなり日常にある映像に寄せて作ってるとは思うんです。でも、どっかで短歌的な何かとちょうどミックスできたら一番いいなと思っちゃうんですけどね。

――今回は即吟の句会で、前回の吟行とは使う筋肉が違うように感じましたか?

村上:即吟も吟行も、ここで完成形じゃないから、何かでこれを発想の起点として使えるなっていう。要はメモ書きにメモ書いたくらいの感覚で作ってる分にはすごくいいなって思いました。

神山:偶然がいい方に作用することを期待してるのもあるんですけど、この句会を即吟にしているのは、何より事前に作るとなると負担になるので、気軽に集まってもらう句会がいいなっていうのが狙いとしてはありますね。

村上:(事前に作るのは)それこそプレバトとかの締め切りがあったら、いいワードが出たらとりあえず全部そっちに取っておきたいんです(笑)。でも自分の中で6割の状態くらいのものを句会に持ってくるしかない、っていうのも失礼だし、嫌じゃないですか。だったらその場で作って、逆にここでできたアイデアをプレバトに持っていった方が物理的に得っていう。締め切りがかぶってなければ事前に作るのも全然いいんですけどね。

――でもそうやって毎回全力で取り組んでくださっているので、プレバトの炎帝戦もとりましたよね。俳句が上達している実感はありますか?

村上:数は作れるようになりました、圧倒的に。昔はほんとイヤだわ、って思ってたのが今はもうちょっとしんどくなくなったっていうか。鍛錬して慣れたというか。あと、一つのお題から違う言葉をいっぱい連想できるようになりましたね。

神山:どこで一番俳句ができますか? 例えば電車の中とか風呂の中とか、蒲団の中とか。

村上:僕は基本、作ろうと思って作る時はぜんぶ喫茶店か家なんですよ。書き留めておくのは電車の中とかが多いです。本読んでたりとか人の会話聞いてて、「そのワードふつうに知ってたけど最近使ってなかったわ」とか出てくるじゃないですか。最近「読書灯」って言葉を見てメモりましたけどね。あと実感でいえば、プレバトによっておじいちゃん、おばあちゃんへの知名度がすっごく上がってますね。田舎に行くと「プレバト見てる」って言われるから。

神山:どんなこと言われるんですか?

村上:昔は「がんばってね」が、最近は「本当にうまいね」になってきて。名人10段までいくと箔が付いてきましたね(笑)。

神山:じゃあ不安は割とないくらいな……。

村上:それはあります! 結局ずっと分からないまま進んでるんで。

神山:村上さんには連作を作ってみてほしいです。世界観が確立されてる方なんで、たとえば恋愛の句を20句とかって絶対需要あると思うんですよね。そういうのはみんな望んでるんじゃないかなと思います。

【俳句修行は来月に続きます!】