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女性たちから環境への警告 書肆侃侃房・田島安江さん

 「奪われし未来」が出版された1997年は、まだ自分が出版社をやるなんて考えてもいなかった頃だが、私の中に漠然とした社会への憤りのようなものがあった。レイチェル・カーソン著『沈黙の春』や有吉佐和子著『複合汚染』など、女性たちが警告した農薬や合成化学物質の怖さをひしひしと感じていたせいもあるだろう。生まれてすぐから全身の湿疹に悩まされ、小学校にあがると同時に頭にDDTを散布され、40度近い熱を出すたびにペニシリンを打たれた私は、抗生物質アレルギーで苦しんでいた。

 本文中、環境ホルモンが生殖器の異常を引き起こし、奇形の動物が生まれ、野鳥や海や湖に暮らす動物たちが蝕(むしば)まれているという報告が世界中から続々と届けられるシーンは圧巻だ。人間に何も起こらないはずはない。水俣病やカネミ油症など、現実はもっと先をいっていた。『奪われし未来』が警告した環境汚染や環境ホルモンの害は世界中に広がっている。取り返しがつかないほどに。

 本書がすばらしいのは、3人の共同作業による作品であること。内分泌系攪乱(かくらん)化学物質の専門家である女性科学者コルボーン、環境問題を長年精力的に取材・執筆してきたD・ダマノスキ、野鳥保護と環境保護、核戦争廃絶に取り組むJ・P・マイヤーズが、別々の角度から切り込んでいく。訳者の長尾力いうところの科学ミステリーが、読者を惹(ひ)きつけてやまない。ノンフィクションは、ミステリー小説を読むかのごとく面白くなければならない、と肝に銘じた一冊だった。=朝日新聞2019年8月28日掲載