哲学研究からファッションの道へ。異色の経歴の持ち主だ。服飾ブランド「まとふ」を、関口真希子さんと共に手がけている。
この本では、自らがすくいとった日本の美意識をつづる。豪華なものをあえて簡素に貧しく見せる「やつし」、かすかな気配を表す「ほのか」といった豊かな言葉たち。九谷焼や銘仙などの手仕事。土方歳三や中原中也の着こなし。「服や言葉が持っている面白みが、日常生活を楽しむ大きなヒントになる」と話す。
新聞や雑誌に掲載された文章のほか、自分の気づきや問いを書き留めてきたもの、哲学者の鷲田清一さんと京都を歩きながらの対談も収めた。『言葉の服』という書名には二つの意味が込められている。言葉は、子ども、恋人、先輩……と相手によって使い分ける。「言葉も、実は服をまとっている」。服は自分を表現するコミュニケーションの手段で、その場にふさわしいものを身につける。「服も言葉を発している」
大学院へ進みカントを研究した。だが、物事の本質を知りたいという気持ちと、研究者になるのは全く別のことだと感じるように。「教授に、八百屋でも床屋でも哲学はできるんだよと言われ、哲学者とは職業の名前ではない、ということに気づいた」。観念の世界とはある意味正反対の、手でものを作るということにひかれ、服作りの世界に飛び込んだ。
「着ることは、食べる、住むと同じくらい、人間の命や社会での立ち位置に関わる大事な要素」と語る。「大量生産の時代、服が消費財になっている。着ることに込められた人の美意識やアイデアを生かすことは今でもできるし、それを掘り下げることが、衣服の文化をもう一度豊かにしていくきっかけになるんじゃないか」。だから、「人が服を着る」ということを、考え続ける。(文・写真 神宮桃子)=朝日新聞2019年8月31日掲載
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