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魔女に育てられた子の挑戦 「子どもの本棚」オススメ3冊

「月の光を飲んだ少女」

 魔法を扱いながら、現代にコミットする物語。舞台は中世的な異世界で、そこではシスター長イグナチアが、恐怖と悲しみをもって、従順で信じやすい民を支配している。イグナチア配下の長老会は、魔女への生贄(いけにえ)として毎年赤ん坊を1人ずつ森の中に捨てさせるのだが、ある年捨てられたルナは、善き魔女ザンに拾われて育ち、やがて恐怖の世界をひっくり返して新たな世界を作り出そうとする。協力するのは、自然の象徴とも思える沼坊主グラーク、竜のフィリアン、ついに出会えた生母、正直でやさしい若者アンテイン、自分の頭で考える勇敢なエサイン。おもしろく読めて、生と死、支配と被支配、魔法と自然の力などについて思いをめぐらせることができる。(翻訳家 さくまゆみこさん)

「リスタート」

 今までの記憶を全部失ったとしたらどのように新しいスタートを切るのか……。この作品は、それぞれが自分のことにあてはめて考えてみたい“自分探し”の物語である。
 夏休み、屋根から落ちてすべての記憶を失った13歳のチェース。自分が誰かもわからない不安な日々が続く。そんなおそろしい状況の中で学校生活を送る彼は、カメラの腕を買われてビデオクラブに入部。そこで、自分がアメフトのスター選手だったことや、とんでもないワルだったことなどが少しずつ明らかになっていく。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)

「うみへいったちいさなカニカニ」

 岩のくぼみで大きなカニカニと暮らす、小さなカニカニ。はじめて海へ行くことになり、はりきって横歩き。でもいざ海を目の前にしたら、足がすくむ。水際で大きなカニカニに励まされていると、大きな波が「ばっしゃーん!」。ますます引き返したくなったところへ「どばしゃーん!」。だんだん大きくなる繰り返しのリズム。砕ける波の爽快な迫力。たっぷり48ページ、めくるのが楽しい。海デビューを果たしたカニカニが見たものは? 踏み出す一歩から新しい世界が広がる。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)=朝日新聞2019年8月31日掲載