芸術として高評価も、保管難しく
秋田県横手市の増田まんが美術館は、先駆的に原画の保存と活用に取り組んでいることで知られる。収蔵する原画は、「釣りキチ三平」で知られる矢口高雄さんら地元出身のマンガ家を中心に23万枚。5月にはリニューアルオープンし、原画の収蔵庫を広げ、70万枚まで収蔵可能となった。
原画は紙に描かれるため、酸化や色落ちなどで劣化しやすい。同美術館が収蔵する原画は1枚ずつ中性紙に挟み、24時間体制で温度20度、湿度55%で収蔵庫内で保存する。6万2千枚は高精細スキャナーで読み込んでデジタル保存している。
マンガへの評価が高い欧州では、制作過程や作者のタッチが表れる原画を重視する傾向が強い。2018年には手塚治虫の原画に3500万円の値がついたこともある。
9月初め、京都であった国際博物館会議(ICOM)では、英国と韓国、日本の博物館関係者がマンガ原画の保存と展示をめぐって議論した。
マンガ好きの日本研究者ニコル・ルマニエールさんは8月26日まで約3カ月、ロンドンの大英博物館で開かれていたマンガ展を企画した。「今回のマンガ展でも大事なのは原画だった。大英としても原画を積極的に集めたい」と述べた。
専門家によれば、国内にはマンガ家の手元や出版社などに計5千万枚の原画が残されていると推計される。原画は印刷するための版下でもあり、マンガの掲載誌や単行本に比べて国内での価値づけは定まっていない。
だが、マンガ家や遺族の高齢化で原画の管理が難しくなっているほか、出版社が保管費用を負担しきれずに処分されたケースもある。ルマニエールさんは「原画が保管されているのは、作家の押し入れが多い。博物館で展示したい原画が見つからないこともあった」と指摘した。
文化庁も危機感を抱き、原画のアーカイブづくりに乗り出した。同庁の委託を受けた研究グループは2月、原画を保存できる施設のネットワーク構想をまとめた。増田まんが美術館には「マンガ原画アーカイブセンター(仮称)」を併設することを目指す。同館の運営に関わる横手市文化振興課の大石卓係長は「大切な原画が浮世絵のように海外に流出する恐れもある。地方にあるマンガ関連施設による原画保存のモデルケースになればいい」と話す。(田中章博)=朝日新聞2019年9月25日掲載