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「民主主義を救え!」書評 「信念のために戦う」勇気あるか

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月19日
民主主義を救え! 著者:吉田徹 出版社:岩波書店 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784000248891
発売⽇: 2019/08/29
サイズ: 20cm/282,76p

民主主義を救え! [著]ヤシャ・モンク

 私たちにとって、民主主義の下で生きることはどれくらい大事なことだろうか。気になる数字がある。世界価値観調査によれば、アメリカのミレニアル世代、すなわち1980年代以降に生まれた人々の間において、民主主義の下で生きることが重要と回答したのは全体の3分の1に過ぎなかった。7割以上が重要と答えた30年代生まれの世代と比べると、若者は民主主義への信頼をだいぶ失っていることになる。
 アメリカほどではないにせよ、日本にもほぼ同様の傾向が見られる。実際、先の参院選でも18歳と19歳の投票率は32・28%で、国政選挙で戦後2番目に低かった全体の投票率48・80%をさらに下回った。全世界的に見られる若者の民主主義に対する幻滅を研究し、民主主義が崩壊する可能性に警鐘を鳴らしてきた若手研究者が執筆した本書は、民主主義の危機がいかに生じ、その処方箋がどこに見いだされるかを体系的に論じている。その内容は、日本にとっても対岸の火事とは言えない深刻さを含んでいる。
 なぜ民主主義は危機に陥ったのだろうか。かつて民主主義が安定したかに見えた第2次大戦後に比べ、三つの条件が失われたと著者は指摘する。第一はフェイクニュースを抑制していたマスメディアの優越、第二は生活の安定とより良い未来への期待、そして第三は民族的な同質性である。これらの条件は、インターネットの発展、未来への不安、そしてエスニックな多様性によってそれぞれ失われた。
 それでは、どうすれば民主主義を立て直せるか。本書は、課税、住宅政策、さらに市民教育などによって、国家への信頼を取り戻す諸提案をしているが、最後に強調されるのは、勇気である。民主主義の危機において、私たちはポピュリスト政治家を前に声を上げられるか。問われているのは「信念のために戦う」勇気であるという結論が重い。
    ◇
 Yascha Mounk 1982年ドイツ生まれ。英米の大学で学ぶ。ジョンズ・ホプキンス大准教授(政治理論)。