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ハリウッド覆った、自由を狩られる恐怖 山本おさむ「赤狩り」

 山本おさむの『赤狩り』が面白い! まだ連載中で、早く結末まで読みたいという欲求と、まだずっと続いてほしいという願いが心で争っていますが、最新巻で映画監督エリア・カザン編が一段落。我慢できずにご紹介します。

 「赤狩り」とは、1940~50年代、米ソが世界の覇権を争っていた時代に、米国内でソ連を支持する共産党員と同調者たち(アカ)を告発した運動です。本作は、米国議会下院の非米活動委員会(HUAC)がハリウッドの映画人に標的を定め、共産党員から単に自由を求める良心的な人々までを摘発し、追放し、抑えこんだ歴史を、フィクションを交えて描いています。

 第1章は、有名な「ローマの休日」が製作された経緯を扱います。脚本家のドルトン・トランボが主人公です。彼は共産党員ですが、そのことが、性的醜聞をネタに共産党の事務員を脅したFBIの調査でHUACに通報されます。トランボは下院の聴聞会に呼ばれて証言を拒否し、映画業界からハリウッドを追放されます。

 しかし、生活のために名前を隠して「ローマの休日」の脚本を書き、これを、当時の最高の監督の一人、ウィリアム・ワイラーに映画化してもらい、別人の名義でアカデミー賞を受賞します。その苦難の実話を基にしています。

 こう書くとあまりに単純に見えますが、「ローマの休日」の脚本がどうできあがったか、良心派だったワイラーが赤狩りのもとでどれほど苦い味わいの映画を作っていたか、この映画に主演したオードリー・へプバーンがナチスドイツの支配するオランダでどんな少女時代を送ったか……そうしたドラマを絡め、多数の登場人物の大小様々な事件を織りこんで、息もつかせぬ同時多発的群像ドラマにしています。

 政治家たちは、映画表現の自由を非難するだけでなく、おとなしい人々が自分の意見をいうことを恐れるように仕向け、自分と違う考えの人々を「アカ」と呼んで自由な考えそのものを狩ろうとしました。今の日本にとって他人事(ひとごと)ではないその恐怖に、本書は「信頼」というキーワードを対置します。

 第2章では議会侮辱罪でのトランボの獄中生活を描き、第3章ではカザンの密告と裏切りの真実を明かします。同時に、赤狩りの背景となった原爆をめぐるスパイ戦と朝鮮戦争、スターリンの死とローゼンバーグ夫妻の死刑との関係など、歴史分析も冴(さ)えています。

 マンガファン、映画好き、歴史マニア、そして、世界の危機的な未来に関心を抱く方々に、手に汗握る必読書としてお薦めします。=朝日新聞2019年10月13日掲載