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BLラバーの書店員がおすすめする「業界の舞台裏も垣間見られる『お仕事BL』」

DJとリスナー、ラジオがつなげた二人の行く末は?(井上將利)

 ハロウィンが終わり来月はクリスマス、「今年もあと少しですね~」なんて会話が増える11月ですが、意外と落ち着く時期だったりもして仕事に集中しちゃったり(しなかったり)。
そんな少々無理やり?な導入で始まる今月のテーマは「お仕事BL」です!

 今回は橋本あおいさんの「きこえる?」(ホーム社/集英社)を選ばせて頂きました。この作品は作者自身も大好きというラジオを題材に、ラジオDJとして番組のパーソナリティを務めるユノこと湯之口新(ゆのぐち・あらた)とユノの大ファンであるリスナーの桜橋樹を中心に物語が進んでいきます。

 ユノのラジオが唯一の趣味である大学生の樹は、ある日、ユノ本人と本屋で遭遇し勢いでお茶をすることに。ユノへの憧れとともに、内気な性格で周りの人と話すのが苦手な自分のコンプレックスを打ち明ける樹に対して、ラジオDJとしてアドバイスをするユノ。
 憧れの人に背中を押され、樹は少しずつ人と関わることに挑戦していくのでしたが……、というのが前半のストーリー。

 改めて考えるとラジオってすごく独特なメディアですよね。目に見えない声だけのやり取りなのに無性に聞き入ってしまったり、不特定多数のリスナーに向けた発信なのに自分だけに話しかけられているような親近感を感じたり。作中でユノも言っていますが“目の前の相手に話しかける気持ち”が本当に伝わってくるような魅力がありますよね。僕も学生の頃に深夜のラジオを聴いていた時期があったんですが、同じ曜日の同じ時間、いつも同じ時に聴くことで生活の中に溶け込んで、聴いている間だけはパーソナリティやリスナーたちと番組の世界を共有するような不思議な一体感を抱いた覚えがあります。

 作中の二人もそんなラジオの不思議な力によって徐々に距離を縮めていきます。しかし、ユノは自分が樹に抱いている感情が一人のリスナーに向ける以上のものになりつつあることに気付くのでした……。

 樹との距離感に悩み、葛藤していくユノ。近いようですごく遠い、電波で繋がるラジオDJとリスナーの行く末に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

仕事ではライバルでも、恋は好きになられた方のひとり勝ち!? (キヅイタラ・フダンシー)

 電子書店の書店員として働いて早10年。このお仕事も周りからしたらちょっと特殊なのかも……?と感じつつ、他の業界を知らない自分にとって、仕事の描かれ方も新鮮だった1冊を今回は紹介したいと思います!

 里つばめさん「俺が好きなら跪け」(大洋図書)

 エリートバンカーたちがしのぎを削る東都第一銀行本店を舞台にした本作。表紙に続く口絵のイラストが、花びら舞う中でイケメンがお札を風に飛ばしているという、業界っぽさが出ていてインパクト大です(笑)。買収や提携といった取引もバンバン登場するので何だかドラマを見ているような感覚でストーリーにも引き込まれました。

 営業部のホープ、松田と加藤をメインにお話は進みます。松田は上昇志向の塊という感じで、周りに多少の軋轢が生まれようが、仕事の評価を上げるためと女にモテるためには陰の努力を惜しまないタイプ。一方、加藤は淡々と目標を達成し、評価されても感情を露わにしないちょっとクールな堅物。真逆な二人ゆえ、松田の加藤に対するライバル心は燃え上がる一方でした。

 ある日、松田を妬んだ先輩が彼女を寝取っていたということが発覚し、さっそく次に切り替えようとした松田に加藤がした提案は、「俺にしとけ」で……!? いきなりの“奇行”に混乱する松田ですが、ライバル視していた加藤が自分のことを好きだと知って抱いた感情が「勝った!!」というところが松田らしくて笑ってしまいました(笑)。

里つばめ「俺が好きなら跪け」より ©里つばめ/大洋図書

 そんなこんなでスタートした二人の恋の駆け引きですが、敵を作りやすい松田を加藤が華麗にフォローして、見返りに(?)グイグイ踏み込んでいきます。あっという間に流されていく松田がチョロくてかわいい(笑)。虎視眈々とタイミングを見ながら松田の隙に入って攻め落としていく加藤、さすができる営業マンです。文句を言いながらも少しずつ受け入れていく松田もザ・ツンデレで、なんだかいい感じのコンビになりそう♪ 普段飄々としている加藤がラストシーンで起こした行動の男前っぷり! けっこうな執着攻めだった一面を見られてホクホクしちゃいました。

 ものすごい金額が日々動く銀行、色々な人の思惑がぶつかったりするのがリアルで、二人の周りの人間関係も、ここって実は何かあったのでは……なんて妄想ができそうです。1冊でまとまったお話ですが、まだまだ先の未来が楽しみな形で終わるので続編にぜひ期待したい作品です!

捜査は二人一組が原則!事件を軸に変化していく二人の関係が面白い(貴腐人)

 読書の秋! ちょっと変わった業界が舞台の「お仕事BL」はいかがですか。

 はなのみやこさんの「恋と謎解きはオペラの調べにのせて」(心交社)は、警視庁が舞台の窓際部署の変人警察官と自衛官のお話です。
 陸上自衛隊 幹部自衛官の坂崎紅太(さかさき・こうた)は、理不尽な左遷人事で警視庁の窓際部署「警視庁刑事部 捜査資料管理係」への出向を命じられます。新しい上司である一路 澪(いちろ・れい)は、大音響でオペラを聴き、紅茶をこよなく愛する尊大な男。

 これだけで、何かワクワクしませんか?

 とある事件により窓際部署で飼い殺し状態の一路と、片道切符の出向に追いやられた紅太。最初は反発ばかりでしたが、こっそり(していなけど)一緒に捜査に乗り出した頃からバディっぽく且つ、刑事物らしくなってきます(BLだけど)。

 クールビューティーな見た目の印象に反して直情型で猪突猛進なところのある紅太と、冷静沈着で警察官として高い能力を持ちながらも世捨て人状態の一路。“割れ鍋に綴じ蓋バディ”の誕生です。

はなのみやこ「恋と謎解きはオペラの調べにのせて」より ©はなのみやこ/心交社

 紅太は防衛大学の同期で海上自衛隊所属の親友が横須賀米軍基地内で自殺したと知り、どうしても自殺と思えず捜査を始めます。しかし、事件が起こった場所が場所だけに情報が集まらず、焦っているところをつけ込まれることたびたび。
 紅太は自衛官として優秀ですが、自分自身の魅力がわかっていない天然さん。その天然さを遺憾なく発揮して危機に陥るから一路としては気が気でない。こうなると一路が不憫に思えてなりません。
紅太の親友の死を巡る事件を二人で捜査していくうちに関係がどんどん変化していくのが読んでいて楽しいですね。
 そして、捜査を続けるうちに、警察、自衛隊、米海軍と日本の立場など特殊な事情が絡み合って、事件は思わぬ展開を見せます。

 徐々に明らかになっていく親友の死の真相と、在日米海軍司令官から強要されていたこと。
 親友が強要されていたことは、場面として書かれている訳ではありません。文章にして数行だと思います。読んでいるうちに「こうじゃないかな」と予想はつきましたが、改めて言葉として文章にされると強烈なんです。それ故、痛ましさが鈍痛のようにじわじわと……。
 事件は解明されますが、「すっきり解決!」とは、ならないです。でもそこが気に入っていますし、ストンと納得している自分がいました。

 読後は、この二人の続きが読みたいと思わせてくれました。だから心交社様! 続きを……どうか続きを出してください~~~~!!