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「西村ツチカ画集」 背景としてしか存在しないものなどあり得ない

『西村ツチカ画集』

 西村ツチカさんの絵は、私やあなたといった「人」だけが物語を持つのではなく、「世界」もまたそれぞれ物語を持つのだということを思い出させてくれる。星座の描かれた表紙に、星を眺める人々の姿が切り抜かれた帯が重ねられたこの本は、「西村ツチカ」という人の作品そのものを表しているみたいで素晴らしい。

 絵は、不思議だ。自分がいかに日常生活で、人間しか見ていないこと、人間の表面的なところだけしか見ていないか思い知らされる。世界というものの要素として、草花や電柱や雲や虫を見つめている。もちろんそれらは人とは違っている、語り合えないし、感情を持たないものもある。けれど、それぞれに時間が流れている。それぞれが見ている時間があり、世界があり、それは他の何者も知ることができない。だからこそ世界は豊かだ、そういう意味での豊かさだけが本当だと思う。

 背景としてしか存在しないものなどあり得ないんだ。そのことを西村さんの絵は思い出させる。見るたびに私は、絵というものがより一層好きになる。=朝日新聞2019年12月7日掲載