「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、松本清張の短編『七種粥』を味わいます。
日本橋堀留の織物問屋・大津屋では、正月七日の朝、七種(ななくさ)の粥を店のみんなで食べるのが慣習でした。
この年も無病息災を願い、七種粥のお膳を全員で囲んだものの、その日の晩に粥を食べた者たちが苦しみ出すという事態に。苦しんだ末、大津屋の主人である庄兵衛は亡くなってしまいます。
大津屋が繁盛していたことから、庄兵衛は毒殺されたのではないかという噂が立ちますが、七種に当たったのは大津屋だけではないようで……。
「魔除け」を食べる
今回は令和最初のお正月ということで、一年のはじまりを感じられる七草粥に挑戦してみました。
なずな売りは天秤棒を肩から下した 。籠の雪を手で払うと 、下から鮮かな青い色が現われた 。七種は 、せり 、なずな 、ごぎょう 、はこべら 、ほとけのざ 、すずな 、すずしろ 、の七種類となっている 。
一般的に七草粥は作中に登場する「春の七草」を使って作るものですが、現代ではなかなか手に入りにくいのが現実です。
そこで、もっと手軽にできる「現代版七草粥」を作ってみました(代用した食材は「ごはんメモ」をご参照ください)。
千勢は笊(ざる)の七種を一握り取って 、俎(まないた)の上に庖丁で叩いた 。同時に 、そこにいる女中も丁稚も 、 「七種なずな唐土の鳥が 、日本の国へ渡らぬ先に … … 」と囃し立てた 。その声と一緒に 、草を叩く庖丁の音がとんとんと高く鳴った 。
江戸時代には、こうして七草を囃して叩く「七草たたき」と呼ばれる儀式がありました。疫病をもたらしたり、畑を荒らしたりする鳥を追い払い、無病息災と五穀豊穣を祈ったそうです。
それに倣って、囃し立てはしないものの、包丁の背で細かく刻んだ「現代版七草」をトントンと叩いてみました。その後、すり鉢でさらに潰して、煮えたお粥の中へ。
こうなると、もはやどれがどの草だったのか、わからないほどに原形をとどめていません。それが作中で起こる七草粥中毒事件のカギにもなってきます。
七草を一つでも叩けば、一年中無病息災でいられるとのこと。今年の七草粥は、食べるだけでなく、ひとつ叩いてみてはいかがでしょうか。