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経験や理論を読み解き、実践に生かす 1&Dホールディングス代表取締役社長・髙橋 淳さんの本棚

リーダーの心得を250年前の名君に学ぶ

 何か未知の世界に踏み出す時に、本から教訓を得ることが多くあります。過去の事象や経験談を読んでおくと、心の備えとなり、勇気づけにもなります。私は三井物産の繊維部門で11年余り勤めた後、妻の父である現会長に誘われ、ダイリキ(現・1&Dホールディングス)に入りました。当時の日課は、会社帰りの書店通い。買い求めた中に『上杉鷹山』がありました。搾取の時代に「藩民のために」という志を貫き、倹約と殖産を推進して米沢藩を立て直した鷹山。他藩出身の彼に対して「何する者ぞ」といぶかる家臣もいる中、実行力を示した名君の物語は、前職と文化も伝統も異なる会社に飛び込んだ私のバイブルとなりました。鷹山は煙草盆の冷たい灰の中に火種を見つけ、家臣に説きます。「火種は新しい火をおこす。その新しい火はさらに火をおこす。おまえたちこそ、この火種だ。そして、多くの新しい炭に火をつける。新しい炭というのは、藩士であり藩民のことだ」。いつ読んでも感動するエピソードです。社長になった時も読み、社員の心に火をつけたいと奮い立った覚えがあります。

 2008年、当社は外食事業をワン・ダイニング、食肉小売業をダイリキと、それぞれ独立した業態として新スタートを切り、私はワン・ダイニングの社長に就任。その翌年、にわかにドラッカーブームが起こりました。ドラッカーの著書には大学時代に触れていましたが、改めて興味を持ち、2010年から1年かけてダイヤモンド社主宰のドラッカー塾に通いました。様々な業種の人と議論しながらマネジメント理論を体系的に学べる塾です。講習生たちとは、今も年に一度集まります。初日は当社のゲストハウスで丸一日かけてお互いの経営の成果発表会を行い、夜は有馬温泉。翌日はゴルフを楽しみ、ワン・ダイニングの店で昼食をとって解散というスケジュール。この会が毎年あると思うと会社としての実績を意識します。ドラッカーの本で1冊を挙げるなら、ドラッカー自身が「私の著作から最高のページを抜粋し、ACTION POINTを付してまとめてくれた」と語る『ドラッカー 365の金言』でしょう。まさにこれ1冊にドラッカーの神髄が凝縮されていると思っているので、常に傍らに置いて読み返しています。

非合理な自社の手法が戦略の肝だと知る

 ドラッカー塾では、ブランディングの会社を経営する人と知り合いました。折しもワン・ダイニングのブランディングを進めていたので、その方から『ストーリーとしての競争戦略』の著者・楠木建さんを紹介していただきました。楠木さんは本書で「戦略とは競合他社との〝違い〟を作ること。ただ違いを打ち出すだけでは戦略にならない。それらがつながり、相互作用する中で初めて長期利益が実現する」と説いています。特に興味深かったのは、「競争相手が非合理だと考えるような要素をあえてストーリー中に組み込むことが、競争優位の持続につながる」という指摘。思えば当社は、食べ放題でありながら、テーブルでオーダーをとるサービスや、冷凍ではなく冷蔵肉を各店でカットするサービスなど、一見非合理なやり方で他店との違いを出しています。たしかに非合理ではあるのですが、理論的に説明がつく戦略であることがわかりました。楠木さんには社員に向けた講義もお願いしました。ウィットに富む講義で、メチャクチャおもしろかったです。

 楠木さんの本とともに経営の教科書としているのが、『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』。「優れたリーダーは、謙虚さと意志の強さをあわせ持つ」「野心は自分個人にではなく、企業に向ける」「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」「事業に皆で情熱を傾けようと呼びかけるのではなく、自分たちが情熱を燃やせることだけに取り組む」など、ためになる言葉が並びます。本書を読んでいたからこそショックを受けたことがありました。店長面談の際、あるベテラン店長が「価値ある経営」という当社の理念を知らなかったのです。トップダウンではなくボトムアップのビジョンが必要だと痛感し、「この会社で何を大切にし、どう成長したいのか」を社員たちに考えてもらいました。その結果、〝チャレンジ〟や〝プロ意識〟などをキーワードとする行動指針「7つのスピリッツ」が生まれました。今ではアルバイトも含めて朝礼で唱和し実践してもらっています。

 社員から推薦本を聞かれた時は、『道をひらく』を紹介しています。その人の個性に合った本を選ぶのはなかなか大変ですが、仕事との向き合い方、心のあり方、人間関係など、誰が読んでも参考になる名著です。うちの店で働いているスタッフなら、若い子も含めて共感してくれると思い、薦めています。(談)

髙橋淳さんの経営論

 西日本を中心に、食肉小売業のダイリキと、外食事業のワン・ダイニングを展開する1&Dホールディングス。近年は九州エリア、さらに関東エリアに出店し、チェーン網を拡大しています。

「原点回帰」が独自の価値に

 中核事業は、外食事業のワン・ダイニングと、食肉小売業のダイリキ。ダイリキは1965年に創業。「技術」と「対面販売」を強みとし、関西を中心に56店舗※を展開。ワン・ダイニングは、焼肉の「ワンカルビ」「あぶりや」、しゃぶしゃぶの「きんのぶた」、鶏料理の「鶏の力」など123店舗※を展開する。「創業者である義父・髙橋健次(現・会長)の実家は魚屋でした。義父は21歳の時に鯨肉店を大阪・庄内に開店。捕鯨禁止を機に商材を鯨肉からおいしく栄養価の高いホルモンに変え、試食販売やタレの開発によってお客様の支持を広げました。事業が軌道に乗った1971年、義父はヨーロッパ訪問の機会を得ました。この時、パリで明るくファッショナブルな総合食肉店を見て、品ぞろえが豊富で清潔感のある店舗を構想。牛・豚・鶏・ハムなどを一手に扱う総合食肉チェーン店へと業態を進化、店舗網を関西を中心に東海・中四国エリアに広げました」と、髙橋淳社長。

 1992年には売上高100億円を突破。さらなる安定的な成長を目指し、外食事業、中でも焼き肉業態に着目。1993年に「炙屋曾根崎店」をオープン。当時焼き肉店といえば、客単価は7000〜8000円。同社は破格ともいえる2500円の価格帯で提供し、行列ができるほどの人気となった。

 「私は1995年に入社し、店舗開発にあたりました。都心のビルは設備面などの課題が多かったため、出店戦略を郊外にシフト。一気に店舗数を増やしていきました。拡大路線の一方で、やめたことも。肉のカットを外部に委託し、カットずみの冷凍肉を使用することにしたのです」

 しかし、2001年、2003年と続けざまに起こったBSE問題が転機となった。この騒動で売り上げが半減。試行錯誤の末に行き着いた答えが「原点回帰」だ。肉のカットの外部委託をやめ、小売り経験のある社員が、外食店舗の社員に技術指導を行った。

 「また、テーブルにいながらメニューを注文する『フルサービスバイキング』を導入。コストと時間がかかる非効率なやり方ですが、これが独自の価値につながりました」

アルバイトの社員登用を推進

 人材育成にも注力。従業員の指針となるビジョン「ワン・ダイニングスピリッツ」の策定や、従業員が日々の営業で気づいたことをメモし、全社で共有する「気づきプログラム」を通じたモチベーションの向上も図っている。

 「年5000人入社するアルバイトの4割が友人の紹介、社員の6割がアルバイト出身です。また、この4月にはベトナム人のアルバイトから3人を社員として採用しました。200人いるベトナム人アルバイトの教育、インバウンドのお客様への対応、将来的には、ベトナム出店におけるマネジメントや人材育成においても彼らの活躍を期待しています」

 2018年は関東地区第1号店となる「ワンカルビ花小金井店」をオープン。東は武蔵野、西は八王子、北は浦和、南は藤沢という十字形のエリアに集中的に出店していく計画だ。

 「企業理念は『価値ある経営』。お客様、従業員、社会から必要とされる会社と店であり続けたいですね」

※2019年5月1日現在

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