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磯﨑憲一郎さん「金太郎飴」インタビュー 繰り返し出る言葉、信頼に値 

磯﨑憲一郎さん

 デビューから12年、小説家の磯﨑憲一郎さんの『金太郎飴(あめ)』(河出書房新社)は、「小説以外」のこれまでの仕事を集めた1冊。受賞の言葉に対談、エッセー、そして朝日新聞での2年分の文芸時評すべてを収めた。

 タイトルは、編集者をはじめ、相談したほぼすべての人から反対されたそうだ。しかし、どこを切っても金太郎の顔が現れるように「自分はずっと同じことを言っている。同じことを言う自分がえらいのではなく、繰り返し出てきた言葉がえらい。金太郎飴的でありたい」。卑下や謙遜ではなく、反復されるものだけが信頼に値する、という信念なのだ。

 2007年「肝心の子供」でデビュー。その文芸賞の受賞の言葉は、前衛は邪魔だ、小説の力に作者は身を任せればよい、と説いた。そして「小説に新しさを求めない」。新人作家の大胆な宣言に驚くが、この持論は今も変わらない。

 19年3月、文芸時評の最終回は、プルースト『失われた時を求めて』を取り上げ、「本気で小説を書こうと思うのであれば、今すぐ文芸誌など読むのは止(や)めて、二十世紀の小説を読みなさい!」。デビュー前に保坂和志から贈られた言葉を載せた。一見変わらぬ金太郎飴も切る場所で顔が違うように、キャリアを重ねての変奏もある。「内容はどうでもいい、書いているときの文章の面白さや質感こそが重要だ、とますます思うようになっています」

 時系列で並ぶ目次から、エッセー類が極端に少ない年があると気づく。15年に商社を退職するまで、執筆時間が限られ、小説以外の仕事は基本的に断ってきたという。だからこそ、保坂や羽生善治、蓮實重彦との対談や、北杜夫の追悼文は熱をはらんでいる。「これだけはやりたい。そういう仕事の文章を集めた本になりました」

 「小説家の仕事は、作品を通して自分の考えを世に問うことでも、技量の限りを尽くして作品を書くことでもない。個人の力はたかが知れている。小説という芸術の一部になって何かを成し遂げる、それに尽きると思う」(中村真理子)=朝日新聞2020年1月29日掲載