「戦場の中世史」書評 戦争観の変化にみる軍事暴力の本質
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2020年02月01日

戦場の中世史 中世ヨーロッパの戦争観
著者:アルド・A.セッティア
出版社:八坂書房
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784896942675
発売⽇:
サイズ: 22cm/422,51p
戦場の中世史 中世ヨーロッパの戦争観 [著]アルド・A・セッティア
本書は中世の戦争史を「略奪」「攻囲」「会戦」、それに「季節と時刻」「身体」という項目によって独自の視点で描いた書である。中世の戦争については略奪、城壁、傭兵といったイメージが浮かぶ。実態はどうか。兵士を稼業とする人間が存在し、彼らは暴力行使へのためらいを持たなかったという。14世紀には傭兵隊の時代を作るが、やがて俸給を受け取る軍事組織に変化していった。
戦死者からの戦利品の剝ぎ取りは抑制されていた。だが戦闘終了後は味方も剝ぎ取りをおこなった。略奪ができるとわかると、あらゆる者が集まってきた。
また、「城郭」を攻略する方法は、渇き、空腹、戦闘であるという。水を枯らすのが重要な戦術だ。ゴート人がローマを包囲した時は、町に水が運びこまれないよう水道管を断ち切ったという。略奪や身代金目的で王侯貴族を捕虜にする中世の戦争観が、かように変化していく歴史は、軍事暴力の本質を教えている。