まさに看板に偽りなし。「本屋と活版印刷所」の名前の通り、15坪の小さな店内を半分に区切って、新刊書店と活版印刷の工房が同居する。本を選んでいると時折、ゴロリゴロリと印刷機のローラーがなめらかに回る音が聞こえてくる。
絵本作家の永田有実さん(58)と、活版印刷会社代表の長島裕介さん(46)が昨年4月、旧本渡市の商店街に開いた。
永田さんは元々本屋を開くのが夢だったが、踏ん切りがつかずにいたところ、地元のイベント運営で旧知の長島さんが「一緒にやりませんか」と声をかけた。空き店舗を自分たちの手で改装し、半年後には開業にこぎ着けた。永田さんは「勢いって大事ですね」。
品ぞろえは、ミシマ社、ナナロク社、夏葉社といった小出版社の本を中心に数百冊。16世紀末、天正遣欧少年使節団がグーテンベルク印刷機を持ち帰った歴史のある土地らしく、当時印刷された「天草本 平家物語」を現代語訳した本も。
訪れた若い家族連れは、ママが子どもと絵本を見ている間、パパは活版印刷による凹凸が味わい深いポスターに興味津々。そのまま名刺などの印刷を注文する人もいる。長島さんは「印刷だけだったころより、出会いが広がりました」。
商店街には数軒の書店があったが、いずれも廃業。店番をしながら絵本もつくる永田さんは「書店に専念するには正直厳しい売り上げ。プラスα(アルファ)で経営を支えながら、街の本屋さんを続けていきます」。(上原佳久)=朝日新聞2020年2月26日掲載
売れ筋
●『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』小倉ヒラク著(木楽舎) 発酵デザイナーを名乗る著者が、文化人類学の手法で微生物と人間の関わりを見つめ直す。
●『数学の贈り物』森田真生著(ミシマ社) 在野の数学研究者によるエッセー集。「哲学的で言葉がきらきらしている」と永田さん。