司馬遼太郎をしのぶ「第24回菜の花忌」が14日、東京都内で開かれ、司馬遼太郎賞の贈賞式もあった。今回の受賞作は、執筆途上で世を去った夫の遺稿を、妻が引き継いで共著として完成させた。
受賞作『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)は、5・15事件で軍部の凶弾に倒れた首相・犬養毅の生涯を、史実をもとに描いた小説だ。もともと元NHKプロデューサーの林新さんが書き進めていたが、林さんは病に倒れ、2017年に60歳で帰らぬ人となった。ノンフィクション作家で妻の堀川惠子さんは「大変な仕事が残された」と取りかかった。
林さんが遺(のこ)した資料などを1年かけて読み込んだ。「すべての材料が頭に入った時には、林が書いている原稿をいかに縮めて、自分が書きたい人物をどう盛り込んでいくかを考えていた。作家は本当に業の深い職業だと改めて思った」
犬養を始め、西郷隆盛や正岡子規ら登場人物から見えてきたテーマは、「人がどう死ぬか、言い換えれば人がどう生ききるか」。生きているうちに「絶対形にしたいと思うものを持っていることは本当に尊い。最後の最後まで自分の仕事をまっとうする、こんな幸せなことはない」。それは夫にも重なるという。
林さんは剣道をたしなみ、いつも相手を圧倒する気迫がなければできない上段の構えだった。「守ると言う概念がまったくない。林の人生そのものだ。この本も日本における立憲政治の歩みを描くという、真っ向勝負の王道の物語です」(興野優平)=朝日新聞2020年2月26日掲載
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