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「自由の命運」書評 支援と監視のたゆまぬ努力説く

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月07日
自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 上 著者:ダロン・アセモグル 出版社:早川書房 ジャンル:経済

ISBN: 9784152099105
発売⽇: 2020/01/23
サイズ: 20cm/417p

自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 下 著者:ダロン・アセモグル 出版社:早川書房 ジャンル:経済

ISBN: 9784152099112
発売⽇: 2020/01/23
サイズ: 20cm/484p

自由の命運(上・下) 国家、社会、そして狭い回廊 [著]ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン

 リベラル・デモクラシーと市場経済こそが長期的な経済成長を可能にする。逆に、限られたエリートに権力と富が集中する収奪的な制度は、必ずや停滞と貧困につながる。このことを、明晰な経済理論と豊富な事例によって論証したのが、アセモグルとロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』である。
 この本が世界的な話題を呼んでからはや数年、世界ではリベラル・デモクラシーへの不信が急速に拡大した。中国など、独裁的集権体制の下でも経済は発展するのではないか。このような変化を受けて刊行されたのが本書である。中国経済の今後に疑問を呈するなど、コンビの鋭鋒は衰えを見せないが、分析の手法はやや変化が見られる。
 個人の自由を実現するためには、これを保障する強力な国家(リヴァイアサン)が必要である。伝統的な社会は、個人の生命を脅かす暴力を「規範の檻(おり)」によって封じ込めてきた。しかし、そのような規範は個人の自由を抑圧する。これに対し個人の自由と安全を保障したのが近代国家であるが、この国家が強くなりすぎると「専横のリヴァイアサン」になり、弱すぎると「不在のリヴァイアサン」になる。
 両者の間の「狭い回廊」をうまく進むにはどうしたらいいか。著者たちはその鍵を、国家と社会のバランスに見いだす。国家は、国民の自由と福祉実現のために有能でなければならない。が、その条件は社会にあり、社会が積極的に国家を監視し、「足枷(あしかせ)」をつけることが求められる。多様な社会集団が連合して国家能力の拡大を支援しつつ監視する。国家と社会の絶え間ない努力が必要である。
 翻って日本はどうか。国家を監視し、専横を防ぐほど社会は強くないが、いまや暴走しつつある国家も、多くの社会問題を解決できないという意味では無能である。あるいは、日本の現状を読み解く鍵が本書にあるかもしれないと思った。
    ◇
 Daron Acemoglu 米マサチューセッツ工科大教授▽James A. Robinson シカゴ大公共政策大学院教授。