「にちにいまし」は、「似ているけれどさらに良い」を意味するうちなーぐち(沖縄の言葉)。中国料理と日本料理の手法を取り入れ、土地の食材を生かし発展してきた琉球料理の歴史はまさに「にちにいまし」の歩みだという。人気の琉球料理店を77歳で閉じ、今も講習会やメディアなどで活躍する料理家が、うちなーぐちと琉球のことわざ「黄金言葉(くがにくとぅば)」を織り込んだエッセーで沖縄の料理と暮らしの知恵をつづった。
滋養のある食べ物は「くすいむん」(薬となるもの)。「たらじさびたん」は、ごちそうさま。直訳は「足りないです」だが、もっと食べたいぐらいおいしかった、という意味だ。「でも、こうしたうちなーぐちを普段から聞いて育ったのは戦前生まれの私たち世代まで。暮らしの実感に根付いた美しい言葉を後世に伝えたいと思うのです」。手元にノートを置き、思い出すたびに書き留め、それが執筆の下地になった。
「『めんそーれ』には、あっちへ行きなさいという意味もあります。うちなーぐち本来のいらっしゃいませは、『いめんせーびり』と言います」。うちなーぐちも琉球料理も、平俗なアレンジが横行して、伝統的な姿が忘れられていると感じる。
沖縄には炒め物が3種類ある。豆腐が入った炒め物は、ちゃんぷーるー。ご飯やそうめんなど炭水化物をさっと炒めるのが、たしやー。いりちーは炒め煮。「最近は、車麩(くるまふ)を使った『ふーいりちー』を『ふーちゃんぷーるー』と言う人もいて、残念なことです」
がーじゅー(頑固者)だと思いつつも指摘するのは、文化が失われるとすればまず言葉からだと思うから。「元の形を知らずに工夫も創造もできません。基本を守りつつ時代に合わせ変えるべきものを変えていくのが、伝統を受け継ぐことです」(文・写真 大村美香)=朝日新聞2020年3月14日掲載