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李龍徳さん「あなたが私を竹槍で突き殺す前に」 インタビュー 時代に書かされた「ヘイト」の国 

李龍徳さん

「嫌韓」覆う近未来日本 多様な在日の姿から

 「排外主義者たちの夢は叶(かな)った」という衝撃的な一文で物語は始まる。近未来の日本で、初の女性首相は「嫌韓」で支持を集め、特別永住者制度の廃止やヘイトスピーチをなくす法律の撤廃など排外政策を進める。「在日狩り」「愛国無罪」という言葉が乱れ飛ぶ。

 「在日の生保(生活保護)は廃止しろとか、ネットのコメント欄に書き込まれている。はいはいその夢かなえましょう、かなえたらどうなるかお見せしましょう、と皮肉を込めて夢という言葉を使いました」

 悪質な書き込みは嫌でも目に入る。「そこから養分取らないと」と少し笑って、言葉は再び厳しくなる。「韓国系のニュースは平和な記事でも芸能でもヘイトがついてくる。うんざりする。僕の中でそれが積み重なっていく。なぜ規制しないのか。何もしないでいるあなたたちの手も血で汚れているよと思っています」

 韓国人の父と日本人の母を持つ主人公の柏木太一は、在日韓国人の生存権を守るため、ひそかに計画を立てている。武闘派の尹信(ユンシン)はアメリカ育ち。かつての仲間、朴梨花(パク・イファ)は日本を捨てて韓国に渡った。妹をヘイトクライムで殺された金泰守(キム・テス)。在日韓国人の多様な登場人物にそれぞれの思いを吐き出させてゆく。「身近に在日の人がいなければ彼らが何を考えているか具体的にわからないかもしれない。十把一絡げに見ると陰謀論や恐怖心が生まれてくる。帰化するかしないか、なぜしないか、いろいろな考えがある。様々な在日韓国人の姿を見せたかった」

 物語は圧倒的な迫力を持って絶望へと突き進む。「差別はなくならない。人類の永遠のテーマです。物語で安易な道を選んではいけない。生きている限り、闘いなのだから」

 小説が好きだから、物語の突破力を信じている。「書店にはこの本をヘイト本の隣に置いてほしいと思ってるんですよ。冗談半分、本気半分。売り上げのために、どうしてもヘイト本を置かざるを得ないのなら、とりあえず面白いからって一緒に並べてください。間違って手に取っていただいてそれで構わないから」(中村真理子)

差別扇動、思想ではなく「危ない凶器」 特集受け、週刊誌連載を降板した深沢潮さん

 昨年9月、週刊誌「週刊ポスト」(小学館)に掲載された特集「韓国なんて要らない」に批判が起き、同誌編集部が謝罪する事態となった。この時、「差別扇動である」とSNSで特集を批判し、すぐさま同誌での連載を降板した作家がいる。『緑と赤』などのマイノリティーを題材にした小説を手がけてきた深沢潮(うしお)さんだ。2月下旬、東京都内で開かれたイベントで、韓国などへの差別をあおるような「ヘイト本」についての考えを語った。

 深沢さんは当時、6人の作家による週替わりコラムの執筆陣の1人だった。掲載誌が送られてきて、看過できないと思ったのは「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」と見出しがついた記事だった。「在日コリアンの人が、差別的なことを言われて怒りを示しても、無効化されてしまう」

 深沢さんは在日韓国人として生まれた。ヘイト本が並ぶ現状について、「絶望を感じます。書店は『右』『左』といった思想のスタンスととらえているかもしれませんが、私にとっては、『危ない凶器』を売っているようなものです」。出版界や書店がどうなってほしいかという質問に対しては「弱い立場の人が、無意識の差別を受け、娯楽的に消費される状況はなくなってほしい」と訴えた。(宮田裕介)=朝日新聞2020年4月1日掲載