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娯楽も人情も科学も、経営の気づきに ジュピターショップチャンネル代表取締役社長・新森健之さんの本棚

江戸の侍社会はサラリーマン社会のよう

 私の読書好きのルーツは、小学生の時に読んだ「怪盗ルパン」シリーズ。男子の間では「シャーロック・ホームズ」シリーズと人気を二分していましたが、私が最初に夢中になったのは、大泥棒の方でした(笑)。それからミステリーものや冒険ものが好きになり、続いて時代小説や、『坂の上の雲』(文春文庫)など戦争をテーマにした小説も読むようになりました。読んだ中には映像化されたものもありますが、想像を無限に広げられる本の世界は映像にはない魅力があります。

 時代小説は藤沢周平さんの作品に魅(ひ)かれます。藤沢さんが好んで描く江戸の侍社会は、サラリーマン社会に似ている気がします。藩校や私塾を経て藩という組織に入り、実績が認められれば出世する。私が当時の人々を模範としたいと思うのは、身分差など自分ではどうにもならない環境や不条理があってもベストを尽くし、言い訳や泣き言をはかず、潔く生きる姿です。藤沢作品が何よりいいのは、努力が報われてホッとするような結末が多いこと。『麦屋町昼下がり』もその1冊で、ミステリーあり、男女の色恋あり、真剣勝負ありと、藤沢作品の魅力満載の傑作です。

 浅田次郎さんも好きな作家の1人で、『蒼穹の昴』をきっかけに数々の作品を読みました。浅田作品の題材は現代ものから時代ものまで幅広いですが、どれも読後感がさわやか。人間の弱さを許容していて救いがあるんですね。特に好きなのは『天切り松 闇がたり』シリーズ。強きをくじき弱きを助ける泥棒一味の物語です。義理人情に厚い親分や兄貴、色っぽく気っ風のいい女スリ師などキャラクターそれぞれが魅力的で、家族愛や仲間との絆、切ない別離、無念の死などが描かれていく。大正から昭和にかけての実在の政治家や著名人とからめた展開も秀逸。理屈抜きで楽しめると周囲にすすめています。

 『旧約聖書を知っていますか』は、西欧の宗教観や文化を知るのにもってこいの入門書です。聖書に関しては何度も挫折していたのですが、阿刀田高さんの軽妙な文章による本書はすっと読めてしまいました。私自身は先祖の墓に手を合わせる程度の信仰心しか持たないので、キリスト教がなぜあれほどの規模で人々に影響を与えたのかと不思議でなりませんでした。とりわけ旧約聖書は西欧の芸術や文化の源であり、宗教画ひとつ鑑賞するにも知識の有無で楽しみ方が違ってきます。阿刀田さんも「信仰心がない」そうで、そのスタンスのおかげで私のように疎い者にもよく理解できる内容でした。

経営者としての心得を生物学研究に学ぶ

 『生物と無生物のあいだ』が話題になったのは10年以上前ですが、知人のすすめで最近初めて読みました。まず驚いたのが、生物学者でありながら小説家のような福岡伸一さんの文章。ビジネスの世界にどっぷり漬かってきた自分を、日頃考えたこともない生命の神秘の世界にいざなってくれました。また、科学者の手法に気づかされることもありました。「仮説と実験データとの間に齟齬(そご)が生じた時に、仮説は正しいが実験に誤ったと考えるか、自分の仮説が正しくないかもと考えるかは、研究者の膂力(りょりょく)が問われる局面。知的であることの最低条件は自己懐疑ができるかどうかである」という指摘です。これは企業経営においても言えること。過信や慢心といった経営者が陥りやすい誤りを正す考え方だと思います。

 『外資の流儀 生き残る会社の秘密』は、メディア業界の方からすすめられた本です。外資系企業に長く勤めた著者の経験から、アメリカの約半分にとどまっている日本の生産性の低さは、新卒採用、年功序列、終身雇用などに象徴される日本型経営に主因があると指摘しています。成果主義、能力主義などの解決策が網羅されているので、若手のビジネスパーソンは基本中の基本として読んでおくといいと思います。また、「どれも当たり前のことと承知しているが、果たして実践できているか」と、経営者が自らを顧みる材料にもなると思います。ただ、日本型経営がすべて悪いということではないと思います。当社の場合、テレビショッピングというビジネスモデルは外資由来ですが、日本で20年以上培ってきた貴重なノウハウがあり、日本型と外資型それぞれの長所を取り入れた経営というのが私の理想です。いずれにしても、お客様、取引先、従業員、社会に寄り添うビジネスを目指さなければ、サステイナブルな経営は実現できないと肝に銘じています。

 読みたい本はまだたくさんあります。新しい史料や史実が続々と発見されている近代史や戦史にも興味があります。今はあまり時間が取れないので、仕事をリタイアしたら、読書三昧(ざんまい)したいですね。(談)

新森健之さんの経営論

 国内最大手のショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」を運営するジュピターショップチャンネル。専属のバイヤーが厳選するバラエティー豊かな商品ラインアップが大人の女性たちに広く支持されています。どのような取り組みに特に注力しているのでしょうか。

成長を見据え原点回帰を徹底

 新森社長は、ジュピターショップチャンネルの株主である住友商事の出身。社長就任までの4年間はジュピターショップチャンネルの社外取締役を務めた。

 「住友商事では様々な経験をしてきましたが、会社経営は初めてでしたから、社長に任命された時は、身の引き締まる思いでした。自分に課した使命は、お客様、取引先、従業員、地域、社会、すべてのステークホルダーをハッピーにすること。永続的な会社の成長との両立を目指していきます」

 同社が運営するショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」のメインメディアは、24時間365日生放送のテレビ(ケーブルテレビ、CS放送など)。顧客の9割は女性で、ファッション、美容関連、ホームグッズ、家電、グルメなど、女性に人気のカテゴリーを中心に商品をラインアップ。1週間に紹介するアイテムは約500点にのぼる。

 「お客様層は、本物を知っている、目利きする力のある大人の女性です。その目にかなう品をそろえるべく、ユニーク・レア・エピソード・バリュー・リミテッド・リーズナブル・ニッチという七つの選定基準のもと、専属バイヤーが国内はもとより世界各国から魅力的な品を厳選しています」

コンタクトポイントを拡大中 

 同社は1996年の創業以来、長く増収を重ねてきた。2019年度に関しては、中長期的な視点での事業成長を見据え、“原点回帰徹底期間”と位置づけた。

 「成功体験に頼りすぎていないか、『心おどる、瞬間を。』という理念を社員全員で理解できているか、などを見つめ直しています。例えば、衣料品やジュエリーなどファッション系の商品は、利用頻度の高いお客様から支持をいただいていますが、常に新鮮な買い物体験をご提供できるよう、ラインアップや番組内容に工夫を重ねています」

 国内の通販市場(物販)の規模は昨年10.7兆円に達し、ここ10年で2倍に拡大した。小売市場全体もこの10年で133兆円から145兆円に伸長したが、通販市場の拡大が際立っている。 ※「商業動態統計調査」(経済産業省)より 

 「とはいえ、市場全体から見ると通販市場のシェアは約7%、テレビ通販市場のシェアは0.4%程度です。当社はテレビ通販では国内ナンバーワンの規模を誇りますが、市場全体を考えれば伸びる余地は十分にあります。さらなる躍進を目指し、ウェブサイト、スマホアプリ、新聞広告などにもコンタクトポイントを広げています」

 テレビでは一つの商品の魅力や特徴を1時間かけて丁寧に説明し、ネットでもテレビと同じように動画で視聴できるようにして、多様化する各メディアの特性を⽣かしたコミュニケーションを追求することで、いつでもどこでも買い物ができる機会を提供している。

 経営信条を「謙虚さ。若い人の意見もよく聞いた上で自信と責任を持って決断ができるリーダーでありたい」と語る新森社長。前職ではイラク駐在中に当時のイラクによる「クウェート侵攻」が勃発。5カ月に及ぶ“人質生活”を送った経験を持つ。

 「いつ爆弾が落とされるかわからないような状況でしたが、意外と冷静でした。そういう自分を知ることができたのは大収穫。あの極限状況を思えば、めったなことでは動じませんね」(笑)

*本記事は、2019年10月25日朝日新聞に掲載したものを一部加筆修正したものです。

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