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おおいじゅんこさんの絵本「ちびころおにぎり なかみはなあに」 おにぎりが無性に食べたくなる

文:澤田聡子 写真:本人提供 

子育てしながらずっと作ってきた「おにぎり」

——「たきたて ごはんが ほっかほか〜/おしおを ぱっぱと ふりました/しおしゃけ たらこに うめぼしちゃん/あさくさのりも ぱりっ ぱりっ ママさんの てで にぎにぎにぎ・・・/さあて さあて なにになる?」。しゃけ、うめぼし、たらこ。それぞれのおにぎりに具が入る中、ちいさな「ちびころ」ちゃんには、具がなんにも入っていなくて……。おおいじゅんこさんの『ちびころおにぎり なかみはなあに』(教育画劇)は、読んでいるだけでおにぎりが食べたくなってくる“おいしい”絵本だ。

 子どもたちが小さいころ、公園に行くときはいつもおにぎり持参。小さなおにぎりをいつもバッグの中に入れていて、遊び回ってそろそろお腹が減ったかな〜というタイミングでさっと取り出すんです。子どもが小学生になって野球をやるようになってからも、お弁当はおにぎり。子どもたちが好きだったのはゆかりや塩むすびでしたが、たらこをまぶした昆布の佃煮と卵焼きを一緒に具として入れるとなぜか「うなぎ」の味になる、という謎のヒット作も。おにぎりには、子育ての思い出が詰まっていますね。

『ちびころおにぎり なかみはなあに』(教育画劇)より

 「ちびころおにぎり」シリーズを作るきっかけの一つは、スナック菓子のCM。当時、「ポリンキー、ポリンキー、三角形の秘密はね♪」のCMが大好きだったんです。最初にぽっと浮かんだのは、小さなおにぎりたちが手をつないでテケテケテケ……と登場、「おにぎり劇場、はじまり〜!」というイメージ。ラフを編集さんに見せたら「かわいいのでぜひ、これでいきましょう」と言ってくださり、絵本を作ることになりました。

 いつも「描きたいビジュアル」が先に思い浮かぶので、ストーリーが決まるまではかなり試行錯誤しましたね。最初のラフでは、炊飯器に残ったごはんを塩むすびにして、「これもおいしいね!」というお話だったんです。でも、編集さんと相談するうち、「やっぱりちびころにも中身を入れてあげたいよね」となって。具を何にしようか迷いましたが、実家の母はよく「おかか」のおにぎりを作ってくれたなあと思い出して、おかかおにぎりになりました。おかかなら、かつおぶしとお醤油があれば、ぱっと作れますしね。

「かわいくっておいしそう」な “おおいワールド”の魅力

——「ちびころおにぎり」シリーズをはじめ、『クッキーひめ』や『ぺんちゃんのかきごおり』(いずれもアリス館)、『たまごケーキやけたかな?』(ハッピーオウル社)など、これまで食べ物をテーマにした絵本を多く手がけてきた。ふんわりした線とあたたかな色遣いで表現される食べ物の数々は、とにかくおいしそう。

 おいしいものは見るのも食べるのも好きです(笑)。大学時代、初めて絵本の課題に取り組んだときも、お菓子のレシピ絵本を制作したことを覚えています。自分が食いしん坊だからでしょうか、やっぱりおいしそうな食べ物を描くことに喜びを感じるんですよね。

 絵本の中の食べ物って描き込みすぎると、くすんでしまうような気がするんです。手数はできるだけ少なく、でも力があって美しい……そういう絵になるよう、心がけていますね。おにぎりも、シンプルなだけにおいしそうに見せるのは難しい。ちびころちゃんたちのアウトラインは「ダーマトグラフ」という油分が強くて芯が柔らかい色鉛筆で描き、ごはんのふんわりした感じを出しつつ、淡い水彩の背景とのメリハリを効かせています。

『ちびころおにぎり なかみはなあに』(教育画劇)より

 気に入っているページはいくつかありますが、一つ挙げるとすればちびころちゃんがおかかを入れてもらっているところかな。なんだか、不思議な絵でしょう? 黒潮を力強くかき分け、泳ぐかつおの背に乗るちびころちゃんのイマジネーションの世界を描いたんですが、「こんなにすごい、かつおというお魚からできたものを僕は入れてもらっているんだ!」という喜びをこのページで表現できたと思います。

ぎっしり詰まった冷蔵庫、おばあちゃんの蔵……細部が楽しい

——1作目『ちびころおにぎり なかみはなあに』では、食材がぎっしり詰まった冷蔵庫の中身。続く『ちびころおにぎり はじめての おかいもの』ではスーパーに陳列されたいろいろな食材、3作目の『ちびころおにぎり でかころおにぎり おじいちゃんちへいく』では、おばあちゃんの蔵にある珍しい保存食品……。「ずらりと並ぶおいしそうな食品の数々」も、シリーズを通して登場するお楽しみの一つだ。

 『ちびころおにぎり なかみはなあに』の冷蔵庫のシーンは、いろんな食材に目鼻や口を描くと途端にかわいくなるのが、描いていてとても楽しくって。「家の冷蔵庫に入っているとうれしいだろうな」というものをすべて、冷蔵庫や冷凍庫の中に入れてみました。

 ラフの段階では横の見開きだったこのシーンを「縦の見開き」にしてみたのは、ちょっとした冒険でした。「冷蔵庫の中に食材がみっしり詰まっているさまをすべて見せたい!」というチャレンジだったのですが、読者からも面白いと思ってもらえたようです。「ここにはいっているたべものはなんですか」と、お手紙をいただいたりもしました。

『ちびころおにぎり なかみはなあに』(教育画劇)より

 3作目の『ちびころおにぎり でかころおにぎり おじいちゃんちへいく』の「おばあちゃんの蔵」のシーンでは、味噌や醤油、梅干しなどの保存食のほか、梅シロップや大豆があったり。「実家の母はどんなものを仕込んでいたっけ」と思い浮かべながら描きました。現代の子どもたちからすると、「これなんだろう」と不思議に思うような保存食もあるかもしれませんが、こういうページをきっかけに親子の会話が弾むとうれしいですね。

 私自身も細かく描き込まれたページを見るのは昔から大好き。たとえストーリーと直接関係がなかったとしても、こういう「遊び」の部分があるのは、絵本ならではの面白さですよね。作者本人も描いていて楽しいページです。

読み聞かせで絵本の奥深さに気付いた

——絵本作家としてのキャリアと子育てがほぼ同時にスタートしたというおおいさん。子どもたちと一緒に絵本を読むことで気付かされることも多かったと振り返る。

 駆け出し時代は、ちょうど子育てが一番大変な時期と重なっていましたね。子どもが寝ている間にせっせと描いていたんですが、逆に慌ただしい生活の気分転換になっていた部分もあると思います。

 絵本を作り始めたころは、自分の描きたいものが印刷物となること自体が単純にうれしかったんです。でも子育てするうちに、絵本が子どもの生活にどれほど深くかかわっているのか、ひしひしと実感するようになりました。

『ちびころおにぎり なかみはなあに』(教育画劇)より

 子どもってお気に入りの絵本を、何度も繰り返し読みますよね。ロングセラーの『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん作、こぐま社)は、かわいくておいしそう。「ぽたあん、どろどろ、ぴちぴちぴち……」のホットケーキ作りのシーンは忘れられません。ジョン・バーニンガムさんの『ガンピーさんのふなあそび』(ほるぷ出版)は絵がとてもシックで美しく、子どもたちも大好きでした。

 絵本に対する子どもたちの反応を間近で見ていて、子どもには本質的に美しいものを受け止める力が備わっているんだ、こんなに何度も読者に読んでもらえる絵本って本当に素晴らしいものなんだ……と気付き、絵本作家としての自覚が芽生えたと思います。

 コロナ禍の真っ最中に2冊、新刊を出しました。『あかちゃん あかちゃん』(ハッピーオウル社)、『パンダ!』(ほるぷ出版)という、0〜2歳が対象の「赤ちゃん絵本」です。食べ物の絵本ではないですが、どちらも私が今「描きたいこと」を込めた絵本です。赤ちゃんと一緒にパパやママも絵本の世界を楽しんでいただければと思っています。