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「美しい海の生き物 きずな図鑑」 助け合い、命つなぐ姿いろいろ

 初夏の訪れを感じる今日この頃。海の生き物たちを眺めて、目から涼を得るというのも一興です。今回紹介する「美しい海の生き物 きずな図鑑」は、海の生き物たちの“絆”を感じさせる瞬間を集めた写真集のような図鑑。海洋写真家の中村庸夫(なかむら・つねお)さんが世界各地の海や島で、親子や夫婦、群れ、共生関係などのさまざまな関係性の中で助け合って生きる生き物たちの姿をとらえた写真が解説付きで収められています。なかには、海の生き物たちの意外な表情や仕草、生態に驚かされるものも。

 思わずほっこりしてしまったのが、ユカタハタとベンテンコモンエビの素敵な関係を切り取った一枚。赤い体に青の水玉模様が色鮮やかなユカタハタの口の中をよく見てみると、そこにいるのがベンテンコモンエビとのこと。いったい何をしているのかと思えば、ユカタハタの口の中をクリーニングしているんだそうです。ベンテンコモンエビがサンゴ礁や岩礁の壁などにつくったクリーニングステーションには、さまざまな魚たちが体の表面や口内の掃除をお願いしにやってくるんだとか。試しに中村さんがベンテンコモンエビの前で口を開けてみたところ、歯の間をせっせと掃除し始めたというから、驚きです。

 本書は、生き物たちが自然の摂理の中で助け合いながら生きる姿を通して、いろんな形の命のつなぎ方があることを示してくれる一冊。生き物たちの多様な世界を垣間見ていると、なんだか海のように広い心になれる気がします。気持ちに余裕がないときにこそ、ゆっくりと眺めてみてはいかがでしょうか。