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「緊急事態だからこそ、自由を」声明、その心は? 日本ペンクラブ・吉岡忍会長に聞く

コロナ危機についての日本ペンクラブの動画の撮影に臨む吉岡忍さん=興野優平撮影

知る権利が大事、命守るため自ら考えて発言して

――「自由を」というのは自粛に反対なのか。

 「問題の立て方が違う、という指摘です。このウイルスの特性や感染状況などを科学的に知らなければ、一人ひとりが有効に対処しようがない。それは私たちの知る権利であり、自由に考え、発言し、実効的なルールをつくっていかなければ命も守れない。そのために自由が大事なんです」

――とはいえ「知る権利」の象徴ともいえる図書館は、国立国会図書館など休館が多い。

 「過去のパンデミックの様子を調べたい、と思っても、手に取る手段がなかなかない。当時の人たちが、危機的な状況に直面して何を考えたか、どうやって生き抜いたのかを知るのは、いまを生きるためにも重要です。図書館、書店、ネットでもいいですが、知識を得る選択の幅をなるたけ広くしておくことは、社会の成熟に欠かせません」

――コロナ禍で問われているものとは。

 「“社会”をどう考えるかという問題が露呈しています。政府が指図すれば社会は動く、というのでは戦前戦中と変わりません。市民同士で密告するなど、足の引っ張り合いすら起きるかもしれない。かといって、かつてサッチャー英首相が言い放ったような、『社会なんてない。あるのは男と女と家族だけだ』という新自由主義では生存競争を激化させ、マスクやトイレットペーパーの買い占め騒動を起こすだけです」

――危機を乗り越えるにはどうすればいいのか。

 「際限のない金もうけ主義を進め、格差も貧困も弱者も、自己責任のひと言で切り捨ててきた新自由主義では、かえって感染を広げてしまうこともはっきりした。社会の連帯意識を高め、相互扶助の仕組みを整備する方向に舵(かじ)を切る、それができるかどうかにかかっています」(聞き手・興野優平)

危機に思う、動画で配信

 思想や言論の自由の擁護などを基本理念に掲げる日本ペンクラブは、予定していたトークショーやシンポジウムなども軒並み中止、延期となった。代わりにこの危機を考えるよすがとするため、シリーズ動画「コロナと文化~危機のなかで思い、考える」をユーチューブで順次公開している。

 最初の動画は3日に公開され、吉岡さんがペンクラブの声明を踏まえて、今回の事態について語る。第2弾では吉岡さんが作家の今野敏さんにインタビュー。今野さんは米作家カート・ボネガットの「表現者は炭坑のカナリアだ」という言葉を引いて、「私にとってはすごくリアル。ことさら題材にしなくても文学者は(コロナ禍の)影響を受けている」と語っている。

 ほかに元国立感染症研究所室長の加藤茂孝さん、仏文学研究者の中条省平さん、作家の浅田次郎さんらの動画が配信されている。

■日本ペンクラブの4月7日付声明「緊急事態だからこそ、自由を」の要旨

 緊急事態宣言の下では、移動の自由や職業の自由、教育機関・図書館・書店等の閉鎖によって学問の自由や知る権利も、公共的施設の使用制限や公共放送の動員等によって集会や言論・表現の自由も一定の制約を受けることが懸念される。

 これらの自由や権利は、非常時に置かれた国内外の先人たちの犠牲の上に、戦後の日本社会が獲得してきた民主主義の基盤である。

 いつの日か、ウイルス禍は克服したが、民主主義も壊れていたというのでは、危機を乗り越えたことにはならない。いま試されているのは、私たちの社会と民主主義の強靱(きょうじん)さである。=朝日新聞2020年5月27日掲載