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ちくま新書の「世界哲学史」シリーズ好調 哲学とは何か、非西洋の視点から問う

ちくま新書『世界哲学史』シリーズ全8巻。6月発売の第6巻は「近代Ⅰ 啓蒙(けいもう)と人間感情論」

 今年1月から毎月1冊ずつ刊行している『世界哲学史』シリーズ(ちくま新書)が売れ行き好調だ。「哲学」といえば古代ギリシャ・ローマ以来の西洋哲学が中心というイメージを見直し、「世界哲学」の歴史を提示する意義とは何なのか。編者の一人で東洋哲学が専門の中島隆博・東京大教授に聞いた。

 シリーズは、古代から現代までを全8冊でたどり、洋の東西などで分けずに、同時代的に思想を紹介する構成になっている。100人を超える執筆陣をそろえた。8月完結の予定だ。

 ちくま新書編集部によると、第1巻『古代Ⅰ 知恵から愛知へ』は、旧約聖書や古代ギリシャから、中国の諸子百家、古代インドなどを扱い、3刷3万部を超えた。古代ローマやキリスト教、仏教、儒教、ゾロアスター教などを扱う2巻『古代Ⅱ 世界哲学の成立と展開』も3刷。中世を扱った直近の3冊も発売直後に重版がかかり、1~5巻は累計10万部に達したという。

 中島さんは「まず何よりも『世界哲学』という言葉が新鮮だったのではないか」とみる。哲学の「主流」とみなされる英米の分析哲学や独仏の大陸哲学に対し、「日本を含むアジア・アフリカの知の営みはせいぜい思想や宗教であり、哲学とは言えない。思想史どまりだという先入観がどうしてもあった」と話す。

 シリーズの意義については、「哲学とは何か」という問い直しそのものが哲学の営みだと説明する。

 西洋哲学の源流をたどると、起源とされる古代ギリシャの哲学は、エジプトやペルシャなど古代文明の大帝国の周辺で生まれたマイナーな存在だったという。さらに古代の哲学が、イスラム世界などを経由して西欧に伝わるなど、多種多様で複線的な流れを描けることが分かってきている。

 中島さんは、哲学の普遍性は外部の思想を取り込む形でしか実現しえないといい、「西洋哲学に多少なりとも普遍性があるとすれば、それは世界各地、各時代のローカルな議論を取り込んで営々と積み重ねてきたから」と語る。

 さらに、日本発の「世界哲学」の意義を強調する。「日本は非西洋世界の中でも早くから西洋哲学を受け止め、こころ、間、いき、ふるまいなどの概念をもとに自らの伝統を位置づけ直し、鍛え直しながら哲学に取り組んできた。近現代における非西洋哲学の先行者として『世界哲学』を日本から問うことで、今後の世界の知的営みにも貢献できるはず」と意気込んでいる。(大内悟史)=朝日新聞2020年6月10日掲載