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老舗・春陽堂がネット文芸誌 「Web新小説」写真や動画も

スマートフォンで見た「Web新小説」6月号=春陽堂書店提供

 1878(明治11)年に創業した老舗出版社の春陽堂書店が、有料会員制の文芸サイト「Web新小説」を開設した。夏目漱石や泉鏡花らの名作が発表された誌名を引き継ぎつつ、動画や音声も含めたコンテンツを配信する。原則月1回更新し、過去掲載作も読める。ネット文芸誌のサブスクリプション(定額制配信サービス)と呼べる試みだ。

 開設は2月で、購読料は月額1千円(税別)。巻頭詩を詩人の谷川俊太郎さんが書き、連載には、町田康さんによる種田山頭火についてのエッセーや菊池道人さんの歴史小説などが並ぶ。

 ウェブでは横書きが一般的だが、文芸好きに訴えようと縦書きにこだわる。一方で、ウェブの特性も生かす。黒川創さんの回想記は、本人提供の写真や資料が文章と関わりながら進む。詩人の伊藤比呂美さんが朗読し、玉木正之さんがスポーツについて語るなど、動画もそろえる。

 「新小説」は、1889年創刊の文芸誌。「高野聖」「蒲団」「草枕」など、名作を数多く掲載。1950年で休刊していた。春陽堂は、2018年に経営体制を一新、新たなビジネスモデルを模索した際に「新小説」のブランドを生かしたいと考えた。

 ただ、雑誌で連載した作品を単行本にして稼ぐのは出版社の手法の一つだが、それでも「紙の文芸誌を維持するのは厳しい」(編集顧問の岡崎成美〈しげみ〉さん)。そこで企画したのが、有料のネット文芸誌だった。

 印刷や流通のコストは抑えられ、有料会員が増えれば、購読料をもとにコンテンツを充実させられる。ただし、有料モデルは先行例が乏しく、採算の見通しは甘くない。岡崎さんも「のるかそるかの大勝負」と認める。「『新小説』の先駆的な精神を、時代に合う形で引き継いでいきたい」(滝沢文那)=朝日新聞2020年6月17日掲載