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「言葉を使う動物たち」書評 人間中心の先入観をときほぐす

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2020年06月20日
言葉を使う動物たち 著者:エヴァ・メイヤー 出版社:柏書房 ジャンル:動物学

ISBN: 9784760152339
発売⽇: 2020/04/27
サイズ: 20cm/259p

言葉を使う動物たち [著]エヴァ・メイヤー

 動物と言葉が交わせたら楽しそうだ。そんな絵空事めいた話が、あながち夢ではないのかも、と思わせる魅惑的な本と出合った。
 著者のエヴァ・メイヤーは、小説や詩を書き、シンガーソングライターとしても活動する芸術家だが、アムステルダム大学で教鞭もとる。動物哲学の博士号をもつエヴァは、「動物」と「言葉」をめぐる私たちの先入観をときほぐし、人間中心に偏っている私たちのものの見方を快活に刷新する。
 たとえば、人間は霊長類の頂点にある、というのはエヴァに言わせれば正しくない。何しろ「人間とほかの霊長類は共通の先祖から生じたのであって、人間がほかの現存の霊長類から進化したわけではない」のだから。つまり、チンパンジーやゴリラを「人間になり損ねた者」と考えるのは我々の思い上がりなのだ。人間の言葉を人間並みに話さないからといって、彼らが言葉を持たないわけではない。彼らには、彼ら独自の言葉がある。
 「言葉を使う動物たち」を夢見るときの人間は、動物の側にばかり自分たちの言葉を理解して欲しいと求めてしまいがちだが、それは「人間の言葉が唯一の本物」という前提を疑わないせいなのである。「人間が定義した『言語』の枠に、ほかの動物のコミュニケーション形態がはまるかどうかを決めるべきではない。その代わりに、動物が語っていることに注意を払い、そこから言語とは何か、どんな可能性があるかを探り始めるべきだ」とエヴァは言う。私たちが「動物と新たな関係を築く」には彼らと十分に話し合う必要があり、そのために「言葉」の定義をエヴァは果敢に読み替えてゆく。
 「動物」と「言葉」をめぐるエヴァの思索は、自分(たち)の知っている言葉が通じない他者とともに生きる上での最低限の慎みと、そのような他者の思考や心とむきあう知恵を教えてくれる。
    ◇
 Eva Meijer 1980年生まれ。アムステルダム在住。動物保護を目指す「Minding Animals」オランダ支部所属。