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「ファシズムの教室」書評 興奮・歓喜の危険 体験して学ぶ

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年06月20日
ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか 著者:田野 大輔 出版社:大月書店 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784272211234
発売⽇: 2020/04/20
サイズ: 19cm/201p

甲南大学の「ファシズムの体験学習」を紹介しながら、ファシズムの仕組みと成り立ちを集団行動の観点から社会学的に解説。ナチスの大衆動員の実態から、ヘイトスピーチなど身近な問題…

ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか [著]田野大輔

 白シャツをジーンズにインした200人以上の若い男女が整列し、「ハイル、タノ!」と叫ぶ。胸には変なマークが描かれたガムテープを全員がつけている。場所は大学の構内。彼らはいちゃつくカップルを取り囲み、「リア充爆発しろ!」と大声で責め立てる……。
 どう見ても異様だし、不快ともいえる光景だ。しかしこれは、「ファシズムの体験学習」というタイトルの授業の一環なのだ。本書では、この授業をつくりあげた著者が、授業の意図と工夫と効果、ファシズムの過去と現在について、詳細な説明を繰り広げている。
 ファシズムの核にあるのは、強大な権力を握った独裁者が人々を無理やり従わせる恐怖政治ではない、と著者は述べる。確かにヒトラーのような権力者は存在するが、ファシズムに不可欠なのは、支配される側からの積極的な、時に熱狂的な支持なのである。
 なぜ人々は支持するのか。命令に従っていればよい、という状態は、責任から解放された「自由」を感じることができる状況でもある。そして多数の人間が同じようにふるまうことは興奮や歓喜をももたらす。そこに何らかの「悪者」が設定され、自分たちは彼らを「罰する」正義の側である、という意味づけがなされた場合、集団行動は歯止めを失って暴走し、「悪者」に襲いかかりがちである。
 このように普通の人間をも巻き込んでゆくファシズムの危険性を、学生に身をもって体験してもらうことが、この授業の目的である。著者はこうした授業がリスクをはらむことにこの上なく自覚的であり、事前学習や事後の客観的反省をじっくりと行っているだけでなく、体験授業そのものの中に、学生をのめりこませつつ、ある程度は冷静にさせるという相反する要素を入念に仕込んでいる。
 現代日本を論じた終章からは、著者の危機感が伝わる。ファシズムの芽は、過去でも他所(よそ)でもなく、今ここに、私たちの中にある。
    ◇
 たの・だいすけ 1970年生まれ。甲南大教授(歴史社会学)。『愛と欲望のナチズム』『魅惑する帝国』など。