コロナ禍で3月から公演を中止していた歌舞伎座が、いよいよ8月から公演を再開します。まさに「待ってました!」と言いたい気分ですが、コロナ感染予防対策のため客席からの掛け声は禁止だそうです。
5カ月ぶりとなる歌舞伎座公演に合わせて取り上げたいのが「歌舞伎の101演目 解剖図鑑」。歌舞伎に関する著書を多数手がけるイラストレーターの辻和子さんが、数ある歌舞伎の名作の中から101演目をピックアップし、「時代物」「世話物」などのジャンル別に分類。名場面や見どころを華やかなイラストと共に解説してくれます。演目の紹介だけでなく、歌舞伎ならではの化粧や衣裳の意味をはじめ、キャラ設定や専門用語など、歌舞伎の基本についてもしっかり網羅されているので、歌舞伎になじみがない人でも十分に楽しめます。
本書には「八月花形歌舞伎」で上演される「義経千本桜」や「与話情浮名横櫛」「連獅子」も収載。中でも歌舞伎初心者の筆者が気になったのは、若旦那の与三郎とやくざの親分の妾であるお富の波乱万丈な運命の恋を描いた「与話情浮名横櫛」です。
二人の密会が親分にバレてしまい、与三郎は滅多斬りにされ海に投げ込まれ、お富も後を追うようにして身投げ。さらにその後、死んだはずとお互い思っていた二人が実は生きていて再会を果たすという、なかなか激しい物語。いつになっても惚れた腫れたのお話は面白いものですが、本書によれば再会シーンに登場するお富の手ぬぐいは与三郎を演じる役者の柄のものを使うんだとか。
物語の基本設定はもちろん、知らなければ見逃してしまうようなポイントを知ると、歌舞伎観劇の楽しみが増えます。歌舞伎の演目には、能や狂言、文楽など他の伝統芸能と共通のものも多いので、本書をガイドに同じ演目を見比べてみるというのも一興です。