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臨床心理士・みたらし加奈さん「マインドトーク」インタビュー メンタルケア、助けの扉をたたいて

 深い悩みを抱えていながら助けを求められなかった自身の体験から、メンタルケアを身近なものにしようとソーシャルメディアで発信する臨床心理士、みたらし加奈さんの初の著書『マインドトーク』(ハガツサブックス)が刊行された。

 同性のパートナーとの生活やLGBTQ+(性的少数者)に関して発信するYouTube動画「わがしChannel」が人気のみたらしさん。画面の中では恋人の前で無邪気に振る舞う20代の女性だが、エッセーでは自傷行為や小学生のときに受けた性的虐待など自身の過去を初めて詳細に明かす。

 厳格な家に育ち、両親の期待を背負っての小学校受験に挫折。中学時代はストレスがたまると体をつねったり、自分を傷つけることが習慣になった。刃物を使うほどにエスカレートしても、助けが必要だという自覚はなかった。

 多感な時期を支えたのは読むことや、書くこと。岩波少年文庫や青い鳥文庫など児童レーベルを片端から読み、空想の中に救いを見つけた。中学時代からインターネット上に文章をつづり始め、高校時代に始めたブログでコメントがつくと、「自分の書くものが特定の人に影響を与えていくことがうれしかった」。周囲の友人たちから悩みの相談を受けることが増え、大学院で臨床心理学を学ぶことを決意した。

 専門知識を通して客観的に自分の過去を振り返ったとき、小学生の頃、「お兄ちゃん」と慕っていたある高校生から受けていたことが性的虐待だったのだと初めて自覚。「痛みにフタをしてきたことにようやく気づいた」

 大学院に通う頃、加奈さんにとって初めての同性の恋人である美樹さんと出会う。ある日、けんかの後、カッターで足を深く傷つけた加奈さんに美樹さんはこう言い放つ。〈加奈ちゃんは、自分に刃を向けているように見せて、人に刃を向けているんだよ〉。自分だけの体じゃない、愛されている、という実感がわいた。自分には必要ないと思っていた「未来」が初めて描けるようになった。

 現在はフリーランスで臨床心理士として活動し、オンラインでもカウンセリングを受け付ける。ソーシャルメディアで発信するのは、悩みを持ちながら専門機関を受診できなかった自分の経験からだ。「私がメディアに露出することで、助けの扉をたたける人がひとりでもいればうれしい。風邪をひいたら内科にいくように、メンタルケアも気軽なものにしたい」

 昨年、美樹さんと挙式。だが、日本ではいまだ同性のパートナーには法律婚が認められておらず、葬式や病院に家族として立ち会えないなど不利益がある。

 自分はマジョリティーだと思い込んでいる人でも、「本当はマイノリティーの側面もあるのでは」と立ち止まって考えてみてほしいとつづる。

 「例えば左利きの人には改札が通りにくい不利益があるし、全てにおいてマジョリティーの人なんていない。そう考えたら、社会の多様性は、マジョリティー側だと思っているあなたも利することだと理解してもらえるんじゃないかと思います」(板垣麻衣子)=朝日新聞2020年8月29日掲載

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