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鈴木亮平さん「行った気になる世界遺産」インタビュー 妄想だからこそ、世界遺産にいつでも行ける!

文:根津香菜子 写真:有村蓮

世界遺産には歴史の深さとストーリーがある

――まずは、本作を書くことになった経緯から教えてください。

 昔から旅行が好きで、僕は特に秘境的な所が好きなんですが、そういう場所は時間もかかるから中々行けないですよね。だからそんな時は「想像で行っちゃえ!」っていう「妄想旅」の趣味が元々あったんですよ。それは自分だけの趣味だったんですけど、この連載を始めるとなった時に「この趣味を形にしたら、喜んでくれる人も中にはいるんじゃないかな」と思って書き始めたのがきっかけです。

――鈴木さんが世界遺産にハマったきっかけはどんなことだったのでしょう。

 元々外国の旅番組が好きで見ていたんですが、世界遺産がよく出てきたんですよ。最初は世界遺産って観光地なのかなと思っていたら、調べて知っていくと「残していくべき人類の宝であり価値」だということが分かったんです。実際に訪れた世界遺産もありますが、自分が行った場所を描くのは好きじゃないので、本作ではどこも「行ったことがないけど、気になっている世界遺産」を選びました。

 世界遺産って、必ずしも素晴らしい景色があるとは限らないんですよ。でも知っていくにつれ、ただの観光地としてではない歴史の深さや、そこにまつわるストーリーが楽しめる場所だったので、これは面白いなと思いましたね。それを理解するためには知識も必要です。例えば、この街にはこんな歴史があるからこういう価値があるっていうことも分かってくると、よりその世界遺産に魅力を感じますね。

「妄想旅行」はベストなタイミングで世界遺産に行ける

――鈴木さんは本作を「妄想旅行」と仰っていますが、執筆中はどんなことに思いを巡らせていたのでしょうか。

 まずは「締め切りが辛いな」ということですね(笑)。これはフィクションなんですが、嘘はつかないっていうのがモットーなんです。本作は僕が好きな世界遺産のプレゼンでもあるのですが、どうすればフィクションの旅で、真実を描きながら一番魅力的な形でこの世界遺産の魅力を伝えられるかを考えました。そのためには、その場所の風土、食べ物、気候などを色々調べていって、自分の理想の旅を思い描くまでのリサーチに一番時間がかかりましたね。正直、現地に行って書いた方が楽だと思います。だけど、そこを乗り越えて気づいたのは、実際に行った旅行記よりも、行っていないからこそベストなタイミングでその世界遺産に行った気になれるということです。ものによっては「この日に行ってほしい」っていう場所もあるので、世界で一番美しい瞬間のその場所に(妄想で)行けるのは、実際に行ったものよりもかなりパワフルな内容になっているんじゃないかなと思っています。

――世界遺産にたどり着くまでの風景描写や、ベトナムの「古都ホイアン」をはじめ、現地での時間経過も細かく描かれていますが、やはり「そこ」にたどり着くまでもが、この旅の重要なポイントなのでしょうか。

 ものによっては、そこにたどり着くところまで描いた方が魅力的な世界遺産と、もう最初に行っているところから始まる方がいい世界遺産があるんですよ。到着するまでの過程が面白いなとか、向こうでの時間の経過が気になるなっていうところはそう描いています。「イグアスの滝」の回は、最初からそこにいて、滝を前にして人間が何を思うのかをひたすら書き連ねた回になっていますし。それぞれですね。

――ご自身で読んでも「泣ける」という「ワルシャワの旧市街」の回は、街の絵をモノクロとカラーで色分けて描かれることで、あの場所の歴史を表現されていると感じましたし、鈴木さんがモノクロの街の方を向いて立っている姿も印象的でした。

そこまで見ていただいて! ありがとうございます。

鈴木亮平「行った気になる世界遺産」より ポーランドのワルシャワ旧市街

独学の絵で世界遺産の魅力を伝える

――この場所が世界遺産に登録された背景にある歴史やストーリーを知った時の気持ちを教えてください。

 ポーランドの人たちがこの街に抱いている愛着や愛情、そして自分たちの歴史を忘れないという意思の強さに感動しました。世界遺産の面白いところって、そこなんですよね。行って楽しむだけだと「キレイな街だな」で終わっちゃうんですけど、そうじゃなくて、ここが美しいのはなぜなのかを知ることが大切で、特にワルシャワは一度崩れて再現された街なんです。偽物なのに、それが世界遺産になるということは、人類が歴史を大切にして、住む場所に愛着があって、自分たちの民族の歴史に誇りを持つということこそが、世界遺産の精神だなと思っています。エジプトのアブ・シンベル神殿もそうなんですけど、フェイクだからこそ、より真実が浮かび上がってくるってものがあるんだなと思いましたね。しかもワルシャワは、一年に一度、ワルシャワ蜂起の日の一分間だけサイレンがなる時に、なんて中々行けないので、その特別な体験ができるのもフィクションの強みなのかなと思います。

――作中の絵も全て鈴木さんが描かれていますが、どこかに飾って、ずっと見ておきたいくらい素敵です! 絵は独学だそうですね。

 そうですね。ただ、美術館に絵を観に行くのが好きなので、影響は受けているなと思っています。例えば雪を描くなら「絶対そこにピンクと青色を載せたい、モネみたいに!」っていう憧れがあって描いているんですけど、実際に自分で出来上がったものを見たら、「所詮、素人だな」って。文章もそうですが、自分で描いてみたら「やっぱり本職の人はとんでもないな」って思いますね。僕は絵も文章も本職ではない代わりに、自分のライフワークでもある世界遺産の魅せ方だけは妥協したくないなという思いでやっていました。まぁ、それも僕も本職じゃないんですけど(笑)。

――イタリア「ヴェローナ」の回は、絵もストーリーもロマンチックですよね。どの回もそうですが、まずストーリーの一場面を描いた絵があってから物語が始まるので、よりイメージが膨らんで、想像力が掻き立てられます。

 ヴェローナの絵は描くのが一番大変でしたね。街を描きだすとキリがないんです。しかも上から見下ろす、なんていう構図をやっちゃうと、建物を描くのが特に大変でした。

鈴木亮平「行った気になる世界遺産」より イタリアのヴェローナ市街

――これらの絵は写真を元に少しフィクションを入れて描かれたそうですが、特にどの辺が「想像・妄想」になっているのでしょうか。

 ヴェローナで言うと、多分あの角度からは、ああいう風に遠いところに円形の劇場は見えないと思います。そういう写真一枚で収まりきらないところを、絵の強みを活かして色々増やしていたりしています。実際、写真を撮った時にそう写るかどうかよりも、行った場所の印象、まぁ行っていないんですけど(笑)。あえてそう言わせてもらうと、行った場所の印象に、ちょっとだけ嘘をついて一枚の絵にできるじゃないですか。そこがフィクションになっているかな。

――「ギザのピラミッド地帯」の回を読むと、4500年以上も前にあれほどの技術を持ってピラミッドを造っていた人たちが、現代の私たちを見たらどう思うのかなと考えると「私って何にもできていないな」って恥ずかしくなります。

 でも、ピラミッドを造った当時のエジプトの人もそう思っていると思いますよ。「俺、石をこんなに積んでいるだけで、人生何もできていないじゃん」って(笑)。そう思うことは僕もありますし、昔の人も同じように生きていたんだろうなって思うんです。

スタイリスト/八木啓紀、ヘアメイク/宮田靖士(THYMON Inc.)

歴史を知るほどいまの時代を俯瞰できる

――仕事の合間を縫って、ファミレスやホテルで何時間も書いたり、締め切りに苦しんだりと、今作で「生みの苦しみ」を味わってみて、いかがでしたか?

 作家さんへの尊敬が生まれましたね。絵もそうですが、何気なく書いているようで、ものすごく頭をフル回転させないと物語は生まれないんです。あとは、推敲し始めるとキリがないんですよ。今回も連載時から書籍化するときに相当内容を変えているので、語尾とか推敲し始めるともう……。本職の人たちはすごいなと思います。一度自分が書いたものをプロの劇作家の人に見せたんですよ。そしたら「面白いねぇ、でも俺なら一時間で書けるわ」って言われました(苦笑)。

――出来上がった本を前に、今のお気持ちはいかがですか。

 ここまで自分がちゃんと本に関わったのは初めてなので、皆さんにどういう受け取り方をしてもらえるのかなっていう不安はいつも以上に大きいですね。特に今までにないような本なので、一体誰が楽しんでくれるんだろう?っていう不安もありますし。以前「花子とアン」に出た時、僕は印刷屋さんの役だったので本づくりを一緒にやってきたつもりでいたんですけど、自分が本を出す以上、その人たちをがっかりさせたくないという思いもあります。

――この「妄想旅行」を楽しむポイントはどんなところですか?

 これを読んで何か興味を持っていただいたら、ぜひご自分で調べていただきたいです。検索すれば、写真がいっぱい出てきますから。「ウソー!」って思うようなことも、調べてみると結構本当のことが書いてありますし。今回は字数の制限があったので、本当はもっと書きたかったこともあったけど、知らなかった歴史や興味深い場所はまだたくさんあります。まずは皆さんが興味を持ったところから、さらにご自身で調べていただけたら一番楽しめるんじゃないかなと思います。

――本作の「おわりに」でも「想像力が持つ力」について触れていらっしゃいましたが、読書も想像力を育むものかと思います。鈴木さんは普段どんな本を読みますか?

 僕はほとんど小説を読まないんですよ。仕事で台本を読んでいるからかもしれないんですけど、現場で気分転換に小説を読むこともたまにありますが、紀行文とか解説本の方が多いですね。最近読んで面白かったのは、出雲に関する解説本で「出雲とは何だったのか」みたいなことを古代史の神話に絡めた本や「マヤ・アステカ文明では生贄がどんなだった」とか。そういうことが書いてあって、面白かったですね。

 やっぱり歴史は面白いです。歴史を知れば知るほど今の自分が置かれている状況を俯瞰で見ることができて、今のこの世情を後々「コロナの時代」って言われるんだろうなとか、IT革命の時代というとんでもない時代に自分たちは生きていて、後から振り返った時に、この時代の人間としてどう生きればベストなのかとか。それこそ映画やテレビから配信に移っていった僕らの世代は「なんか幕末っぽいな」とか、そんなことが思えてくるんです。そんな歴史の中にいるとしたら、自分はどう生きたいだろうと考えるのも面白いですね。

 僕は知らないことがあると、何でもすぐに調べる癖があるんです。ただ一番はやっぱり現地に行きたいですね。行って感じることの方が情報量が数万倍あるので。でも、実は僕、意外と出不精なんですよ。行ったらものすごく楽しむくせに「よいしょ」ってしないと中々動かないので。そういう人間にとっては、頭の中の想像力が一番の武器なんです。想像の世界で生きることが仕事だということはすごく自分に合っているし、役者ができることは恵まれているなと思います。

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