「ここにいる」
日曜は畑仕事に精を出す、働き者のお父さん。時々わたしたちをひざにのせ、万年筆で絵を描いて見せてくれたね。絵描きになりたいと言ったら、次の日クレヨンを買ってきてくれた。叱られて隠れたとき、画塾の帰りが遅くなったとき、18で家を出たとき、結婚を告げたとき……お父さんがいた。朗らかな絵と短い言葉で、父との思い出をあたたかくつづる自伝的な絵本です。おじいちゃんになって、やがて入院したお父さん。病室でお話を読んであげたときの初々しい喜びの体験。親子の最後の時間と別れの場面がまばゆいほど豊かに描かれるから、「この人生を まっとうした おとうさん」への祝福や、きっぱり「ここにいる」という確信に共感できます。(あおきひろえ作、廣済堂あかつき、税抜き1500円、小学校低学年から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「スイマー」
小学6年生で両親の故郷である佐渡に転校することになった航。母は東京のスイミングクラブを途中でやめることを心配したが、仲間とうまくいっていなかった航は水泳から離れられることになり、少しほっとしていた。ところが、地元の小学校で水泳オタクの海人や龍之介、信司にリレーのメンバーが1人足りないので一緒に泳がないかと誘われ、航の心はゆれる。3人は地元のプール存続のため、メドレーリレーで大会に出場することをめざしていたが……。泳ぐことを通して固く結ばれる仲間同士の絆に胸が熱くなる物語。(高田由紀子著、結布絵、ポプラ社、税抜き1500円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「がろあむし」
卵からかえったがろあむしの赤ちゃん。小さな生き物を次々食べて大きくなる。もちろん、食べられそうになることもある。何年もの間、食べてにげてを繰り返す。そして、伴侶を見つけ卵を産む。空腹でどうしようもなくても足を食いちぎられても、とにかく生きて命をつなぐ。役目を果たした後は、誰かの糧になる。こんな小さなものたちが精いっぱい命を育んでいる間も、人間たちは緑を奪っていく。今までその存在に気づくことも無かった小さな虫に「必死に生きてみろ!」と言われているようだ。(舘野鴻(ひろし)作・絵、偕成社、税抜き2千円、小学校低学年から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】=朝日新聞2020年9月26日掲載