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「麻酔科医ハナ」で知る、麻酔科医のお仕事 劇薬で、患者を恐怖から守る

文:佐藤直子

 10 月13日は、江戸時代の医師・華岡青洲が「全身麻酔」での手術を初めて成功させてことから麻酔の日と定められています。現在、コロナ禍で医師の窮状が叫ばれ、特に麻酔科医の不足は深刻な問題です。『麻酔科医ハナ』(作・なかお白亜、監修・松本克平、双葉社)には、日々激務と闘い、手術に立ち向かう姿が描かれます。

 主人公の華岡ハナ子(通称・ハナ)は、病院で働く2年目の麻酔科医。明るく素直で、子どもに麻酔する時にはキャラクターものの手術着を着るなど、親しみやすい性格です。麻酔を打つことが好きでセンスもありますが、手術室では威圧的な態度の医者にビビり、プライベートでは手術が入ればすぐに呼び出され、おまけに朝も夜も、季節をも感じない世間と隔絶された空間で働き――。やがて仕事の意義を見出せなくなり、一度は辞表を手にしますが、患者や先輩から麻酔科医としての在り方を模索し始めます。

©なかお白亜・松本克平/双葉社

 心筋梗塞や帝王切開、網膜剥離、美容整形など、手術の場面は様々。麻酔科医は整形外科、産婦人科、眼科、小児科など手術を行う医療機関であれば科を超えて活躍します。点滴から麻酔薬を投与して患者の呼吸を止め、鎌のような専用の道具で喉を開き、人工呼吸器につなぐ管を入れて呼吸を代行します。心臓の動きや血圧に気を配り、時には輸血を行い、寒さがひどい時にはあたたかい点滴を打つなど、患者が危険な状態に陥らないよう、手術終了まで執刀医の隣で患者の命を管理します。症状や体調に合わせた麻酔を行うため、手術前の患者への回診も欠かせません。

 身長と体重が同じ数値のふくよかな妊婦に、帝王切開のための麻酔を打つことなったハナ。しかし脂肪が厚い上に血管が細く、点滴をさすのに手間取ったために、赤ちゃんの無事を優先して、産婦人科医から自分で局所麻酔を行うと言われてしまいます。通常、帝王切開の場合には下半身全体に麻酔をかけますが、局麻酔は効く範囲が限られるため、手術の方法によっては、痛みが伴う場合も・・・・・・。「戦力外通告」を受けて頭が真っ白になったハナですが、指導係の火浦ヒロトに予想外の方法で救われて、ピンチをしのぎます。

©なかお白亜・松本克平/双葉社

 火浦は乱暴な言葉使いをすることもありますが、手術中の痛みのみならず、術後麻酔が切れた後の生活に支障が出ないことまで考えて、患者の体を観察し、内側までも立体的にイメージします。「患者の立場に寄り添ったケアは、術者が集中できる環境を作り出す」とハナに麻酔科医としての在り方を教えてくれる、頼れるあこがれの先輩です。

 麻酔科医は劇薬や麻薬を使って患者の意識や呼吸、時には心臓まで止めて患者を死に近い状態にし、恐怖から守っています。今日もハナは死と隣り合わせの過酷な環境にいながら、一人の医師として力強く命を支えています。

「麻酔科医ハナ」で知る、麻酔科医あるある!?

  • 患者が体調不良の場合には、麻酔科医が中止や延期を決めることができる
  • 麻酔は劇薬のため、こぼしたり、容器を割ってしまったりした場合は詳細な始末書を書き、麻薬事故届を保健福祉局に提出する。使用量と残量を記録し、こぼれた液はガーゼやティッシュに含ませ、割れた破片も含め、すべて専門的資格を持つ麻薬管理者へ返却する
  • 同僚が体調不良で弱っているとブドウ糖やビタミンCを多く含んだ手作りの点滴を打ちたがる
  • 麻薬が日常的に転がっている環境に慣れてしまうので、ポスターなどを貼り意識を高めるようにしている
  • 体に入れ墨を入れている人に麻酔を打つときは、絵柄の邪魔にならないようになど一瞬躊躇することがある
  • 医学部の学生は5、6年になると「ポリクリ」と呼ばれる病院実習が始まる。少人数のグループごとにすべての科を2年かけて駆け足で回り、その間に進路を決める人が多い