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「不浄を拭うひと」で知る、特殊清掃のお仕事 残された人たちへメッセージを届ける最後の証人

文:片岡まえ

 2020年5月より連載してきた「レアジョブ、グッジョブ!」は、今回でラストを迎えます。珍しい仕事の紹介や業界の裏側を深堀りしてきました。最終回は、特殊清掃・遺品整理業者「ラストクリーニング 茨城」の代表・天池康夫さんが原案協力のもと、沖田×華さんがリアルな清掃現場を描いた『不浄を拭うひと』(ぶんか社)を紹介します。

 主人公の山田正人は、特殊清掃会社に勤務する会社員。一般の清掃業では難しい、孤独死や自殺で亡くなった人の部屋の掃除、消毒、消臭をして元の状態に戻すのが仕事です。

 特殊清掃の裏には、誰にも発見されず、数日間放置された孤独死が深く関わっています。この場合に多いのが、ゴミで溢れた「汚部屋」。足元にはペットボトルに入った「尿爆弾」が紛れていることもあります。ゴミの山を登ってやっと部屋に入れたと思ったら、虫地獄ということも――。ゴミの整理と虫を駆除して、やっと掃除が始まります。警察が回収しきれなかった爪や髪の毛のほか、浴槽で亡くなっている場合には、浮いている排泄物や体組織を網で集め、体液が染み付いたところは薬剤などを用いて綺麗にします。

©沖田×華/ぶんか社

 漫画には時に、「見えない存在」に掃除を妨害されて足が動かなくなったり、体が重くなったりするという不思議な出来事も描かれています。においを外に漏らさないよう、真夏日でも窓を開けずに作業をするなど配慮していても、近所の人からは不安や嫌悪、拒否感を持たれて、死神扱いされることも・・・・・・。

 主人公はこの仕事を始めた頃、友達から「よくそんな仕事やるなぁ」と怪訝な顔をされ、彼自身も「なんでこんなことしなきゃいけないんだろう」と落ち込んでいました。その意識を変えるきっかけになったのは、死後4カ月後に見つかった60代の女性の特殊清掃を行った際、先輩に言われた「孤独死する人は、自分が孤独死するなんて思っていない」という言葉。布団の上にくっきりと「人だった形」が残っていた以外は、お皿が軽く洗ってあり、細かくした生ゴミも三角コーナーに収まっていて、孤独死のあった部屋とは思えないほど綺麗な状態でした。明日が来ることを疑わずに、たまたま体調を崩して日常が途切れてしまっただけで、それは誰に訪れてもおかしくありません。

 主人公は、何度も現場を経験するうちに故人が何を思い最期を迎えたのか、周りとどんな風に関わって生きてきたかがわかるようになっていきます。特殊清掃は、様々な状況で死を迎えた人の痕跡を消して現状復帰させるスペシャリストというだけではありません。特殊清掃を通して、残された人たちへメッセージを届ける最後の証人でもあるのです。 

「不浄を拭うひと」で知る、特殊清掃の現場

  • 金庫を開ける作業を依頼されることも。家族は金目のものが出てくることを期待しているが、大抵手紙や家族の誰かが描いた絵などが多い。依頼者に不利な遺言書を見てしまい、気まずくなることもある
  • 農業で使う「手箕(てみ)」を使って、床のゴミや虫などを拾うほか、床に散らばったお金を集める
  • ゴミ屋敷ではよく、自家製梅酒や未開封の健康食品が見つかる