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綾辻行人「Another 2001」書評 続編のハードル越え、スケールアップした〈災厄〉の恐怖

文:朝宮運河

 怪奇幻想ジャンルの新刊から気になる作品をピックアップして紹介する本連載〈ホラーワールド渉猟〉だが、2020年の夏はなぜか話題作・注目作が相次ぎ、ブックレビューや時評ではとてもフォローしきれないほどだった。コロナ禍の影響というわけではないだろうが、今年は活字のホラーが例年になく熱かったのだ。綾辻行人7年ぶりの長編『Another2001』(KADOKAWA)は、そんな“ホラーな夏”の掉尾を飾るにふさわしい、圧倒的ボリュームの長編である。

 『Another』といえばアニメ化・実写化などのメディアミックスで知られ、世界各国語にも翻訳されている著者の代表作のひとつ。その続編である『Another2001』では、またしても恐るべき〈災厄〉が夜見北中三年三組の生徒に襲いかかる。主人公はシリーズのスピンオフ的長編『Another エピソードS』で重要な役を演じた少年・比良塚想。『Another』の代名詞ともいえる人気キャラクター・見崎鳴も再々登場を果たしており、ファンには見逃せない作品となっている。

 本書を十分に楽しむためには、『Another』の世界観をあらかじめ理解しておくことが必要だ。作中でも触れられているが、念のためおさらいしておこう。
 物語の主要な舞台となるのは、地方都市・夜見山にある夜見山北中学校。この学校の三年三組は過去に起こったある悲劇が原因で、死の世界と距離が近くなっており、二年に一度かそれ以上の割合で不気味な〈現象〉に見舞われている。〈現象〉がある年には毎月最低一人、クラスの関係者が病気や事故などで命を落とすのだ。
 〈災厄〉と呼ばれるこの死の連鎖を防ぐため、三年三組の生徒には代々、〈現象〉を避けるための対策が申し送りされている。

 〈災厄〉がある年には、三年三組に本来いるはずのない〈もう一人〉が死の世界から紛れ込むが、〈現象〉によって関係者の記憶や公的文書は上書きされ、死者本人を含むほとんどの人はその正体を悟ることができない。
 無差別に降りかかる死の恐怖と、もう一人(=another)は誰なのかという謎。ホラーとミステリが絶妙なバランスで共存する『Another』は、ゼロ年代の国産エンターテインメント小説を語るうえでは外せない名作だ。ホラー読みとしては、著者らしいミステリ的大仕掛けもさることながら、全編に漂う濃密な死の気配に(とりわけすべての発端となった悲劇の回想シーンの禍禍しさに)、心底興奮させられたものだ。

 『Another』が名作であればあるだけ、続編執筆のハードルが上がるのは言うまでもない。数年おきに発生する〈現象〉を利用して、同一パターンのホラーを書くことは簡単だろうが、それでは読者は納得しない。『Another2001』において著者はその高いハードルに挑み、見事大ジャンプを成功させている。序盤から手の内を大胆にさらけ出しつつ、その上で新たな驚きを創出してみせる本作のアプローチには、「その手があったか!」と驚かされるはずだ。

 ミステリとしての完成度の高さは、今後多くのレビュアーによって言及されると思うので、ここではホラー方面からの注目ポイントをあげておこう。まず特筆すべきは、スケールアップした〈災厄〉のすさまじさ。異常な確率の偏りによって、三年三組の関係者には普通では起こりえない死が次々と降りかかる。病死や事故死ならまだまし、と思えるような悲惨な死に方のオンパレードだ。読者は「こんな最期はいやだ!」と叫びたくなるのをこらえつつ、恐々とページをめくらねばならない。
 雹や濃霧、強風などさまざまな気象災害とともに展開する物語は、作中時間内にアメリカ同時多発テロが発生することもあって、シリーズ中もっとも終末観が色濃い(どこかホラー映画「オーメン」を彷彿させる)。見慣れた世界が一瞬で変わってしまうという本作の恐怖は、コロナ禍を体験した私たちにとって、既視感があるものかもしれない。

 優れたエンターテインメントである本作に、あえてテーマを求めるなら「メメント・モリ(死を忘れるな)」の思想だろう。比良塚想をはじめとする三年三組のメンバーは、降りかかる〈災厄〉のなか、健気にも学校生活を続けようとする。その姿に一種異様な感銘を覚えてしまうのは、三年三組が理不尽な死であふれかえったこの世界の縮図だからではないだろうか。
生者にとって永遠に知ることのできない死の世界。それを極上のホラー&ミステリとして潔く描ききったところに、『Another2001』の普遍的な価値があるようにも思う。

 巻末の「あとがき」によれば、著者にはさらなる続編の構想があるという。どんな展開になるのか想像もつかないが、『Another2001』を実現させてしまった著者のこと、きっとまた高いハードルをクリアしてみせるに違いない。素晴らしいシリーズをリアルタイムで追えることの幸せを噛みしめつつ、800ページ超の単行本を大満足のうちに読み終えた。