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岩波少年文庫が創刊70年、読み継がれる理由は 「ガンバの冒険」著者・斎藤惇夫さんインタビュー

書店に並ぶ岩波少年文庫=東京・銀座の教文館6階の子どもの本売り場「ナルニア国」

470タイトル、読みやすさ工夫/電子書籍も

 「名作をよい日本語で届ける。その部分は創刊からずっと変わっていない」。岩波書店の愛宕裕子・児童書編集部課長はそう話す。

 終戦から5年後の1950年12月25日、新たな時代を生きる子どもたちに世界の名作を届けようと、故石井桃子さんらによって創刊された。最初の書目は「宝島」「あしながおじさん」「クリスマス・キャロル」「小さい牛追い」「ふたりのロッテ」の5冊。現在までに約470タイトルが出版され、「ホビットの冒険」など、映画化された作品もある。

 時代を経て、作品によっては翻訳を見直すなど、読みやすくする工夫も重ねてきた。「70年といっても、子どもたちとそれぞれの本との出会いは常に『初』。たまたま手に取った本が面白ければ、他にも読みたいと思うかもしれないし、逆もあるかもしれない。その初めての出会いに、気を抜いちゃいけないと思っています」。また、現在100冊超を電子書籍で配信し、創刊70年の12月には、新たに70タイトルを配信する。

 即時の反応を求めるより、種をまくつもりで本を送り出してきた。「1冊好きになってくれて、もっと読みたいと思ったときに、『こんなにいい本がそろっているよ』という自負はあります」

ふるさとのような存在 斎藤さん

斎藤惇夫さん

 同文庫に収録されている「ガンバの冒険」シリーズの著者で、元福音館書店編集者の斎藤惇夫さん(80)に思いを聞いた。

       ◇

 創刊のとき、僕は10歳。クリスマスに最初の5冊が届いて、初めて読んだとき、天地がひっくりかえったような感じがしました。外で遊ぶのと同じように、本の中に面白い世界があって、日常で体験できないような、すごく遠く、深いところまで行ける。物語ってこんなに面白いんだと教えられました。

 1950年というと、朝鮮戦争が始まった年です。やっと戦争が終わったのに、隣の国でまた戦争が始まってしまったという恐怖のなか、岩波少年文庫の物語は、世界に希望はある、未来は必ずある、ということを感じさせてくれました。

 自分が本を編集するうえで考えていたことは、「岩波少年文庫を通して知った心の高まりや喜び、『人生は面白いものだ』という感覚を、目の前の原稿が感じさせてくれるかどうか」。自分が物語を書くときも、それは同じでした。

 いま、いろんな本が洪水のように出版されていますが、岩波少年文庫は「いちばん優れた、行って帰って来られるふるさとのような存在」だと思います。何十年にもわたって子どもたちが「面白い」と思って生き延びさせてきたものは、文体も構成も、ずば抜けて優れたものだけが残っている。

 コロナ禍は、子どもたちにじっくり本を読んであげるチャンスだと思います。普段にも増して、本を読んであげてほしい。子どもたちの未来のため、いい言葉、面白い物語を、本気になって与えてあげる。それが、いま大人が子どものためにできる、唯一のことなんじゃないかなと思います。(松本紗知)=朝日新聞2020年10月31日掲載