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【読書週間2020】とっておきの出会い、書店で 青森、佐賀、高知…リアルの場から本の魅力を発信

画・安田弘之

ほのぼの、手描きポップごと販売 木村書店(青森県八戸市)・及川晴香さん

 

ポップコーナーの前で、自作のポップ付きのおすすめ本を持つ及川晴香さん=青森県八戸市の木村書店

 本の魅力を伝えるポップは、リアル書店を訪ねる楽しみの一つだ。青森県八戸市の木村書店は、手描きのイラスト入りポップごと本を販売するお店として知られる。作っているのは、「ポプ担」こと及川晴香さん(32)。約2万4千人のフォロワーを持つお店のツイッターでも、おすすめの本を発信している。
 木村書店は、八戸市の郊外にある創業90年を超える昔ながらの書店。その一角に、カラフルなポップが挟み込まれたコーナーがある。かわいらしいイラストはすべて及川さんの手描きで、常時80以上のタイトルがそろう。「あのポップが欲しい」と、全国から「ポップごと」本を買いに来る人がいるという。
 もともと絵は「中学生の頃に落書き程度」しか描いていなかった。5年ほど前に、孫に贈る本を探していた年配の女性客に売れ筋を紹介したところ、「あなたが面白いと思った本を知りたい」と尋ねられた。「書店員の個人的なおすすめをポップにしたらいいかも」と、ひそかにポップへの意欲を募らせ、帰宅後に絵を描く日々が始まった。

実店舗ならでは、帰りに寄りたくなる工夫

 どんどん絵は好きになるものの、2年間は「お店に出す勇気がなかった」。実際に店に並べるようになったのは、2017年春。すぐに「ポップも欲しい」という来店客が現れた。さらに後日、同じお客さんから「追加でポップごと」と注文が入った。自分の本棚にポップと一緒に本を飾っていたところ、友人がその本に関心を持ったらしい。
 「本屋に並んでいた雰囲気も持ち帰ってもらえたら楽しいのでは」と考えた及川さん。同じ年には、「ポップごと売る本屋さん」として、お店のツイッターの投稿を開始した。「あくまで主役は作家さんや出版社の方が作ってくれる素敵な本たち」と言うが、ほのぼのとしたタッチのポップで紹介した本や自作の漫画が話題に。いまでは、書店のグッズを作ったり、本の帯やカバーイラストを頼まれたり。地元の菓子メーカーや飲食店とコラボするなど、地域の活性化にも一役買っている。
 子どもの頃から「雑食」の本好きで、紹介するのは新刊旧刊を問わず、小説から観光雑誌まで幅広い。その情報源は、やっぱり店頭なのだという。来店客から薦められた本を読んでツイートすることもある。投稿するのは朝。「仕事や学校の帰りに本屋さんに寄りたくなるように」という思いを込める。「もちろん木村書店にも来て欲しいのですが、それぞれの土地の本屋さんに足を向けるきっかけになったらうれしい」(滝沢文那)

ほれ込んだ一冊に「賞あげちゃえ」 明林堂書店南佐賀店(佐賀市)・本間悠さん

店の飾り付けに力を注ぐ本間悠さん。瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』を現在、強力プッシュ中=佐賀市の明林堂書店南佐賀店

 ほれ込んだ本の魅力を一人でも多くの人に伝えたい、今すぐ! そんな熱意に満ちたツイッター「ほんまくらぶ.com」が出版・書店業界から、そして全国の本好きから注目を集めている。つぶやいているのは佐賀市の明林堂書店南佐賀店の本間悠(はるか)さん(41)だ。
 3人の子育てが一段落したのを機に専業主婦から書店員になって5年目。「ツイッターを始めたのは3年ほど前で、最初にバズった(大反響があった)のは飼い猫の写真。本では偕成社の絵本『こんとん』でした」
 夢枕獏さんが文、松本大洋さんが絵を手がけたこの絵本、本間さんがつぶやくや、ネット書店の在庫が品切れになり、重版も決まった。「自分の裁量で仕入れられるのは5冊ぐらい。でもこんな風に話題が広がれば、全国の在庫が動くこともある。SNSの力に気づきました。作家さんから直接反応がくることも。すごいですね、今って」
 ツイッターでは気取りのない語り口で、ジャンルもさまざまなイチ押し本を紹介する。「お客さんと一緒に売り場を回って薦めている感覚で書いています。文章のすごくうまい書店員さんもいますが、私の場合は勢いが命」と本間さん。
 児童書や実用書の売り場を担当していたが、瀬尾まいこさんの小説『そして、バトンは渡された』(文芸春秋)に感動したのをきっかけに文芸書コーナーも志願した。文学賞や本屋大賞受賞などの話題がなければ関心が高まりづらい昨今。ならば、と「ほんま大賞」を創設した。『そして、バトンは~』、続いて川越宗一さんの『熱源』(文芸春秋)を選び、話題づくりに貢献した。

お客さんと売り場を回る感覚でツイート

 売り場の盛り上げにも力を入れ、飾り付けやポップに趣向を凝らしている。「お小遣いを握りしめて『鬼滅の刃(やいば)』を1冊ずつ買っていく子どもや、ちょっと背伸びして小説を買っていく中学生、見ていると胸がいっぱいになります」

 著者来店イベントも企画されるようになり、本間さん手製のくす玉を割って歓迎するのが恒例になった。初回ゲストは瀬尾さん。くす玉がうまく割れずに丸ごと落ちてしまい瀬尾さんと大笑いしたのも、今ではいい思い出だ。
 「SNSを見て他県から来てくれるお客さんもいます。著者イベントに来てくれた人が、その著者の新刊をわざわざここで買ってくれたことも。どこで買っても、ネットで買っても本は一緒ですが、うちでしか出会えなかった本に、一冊でも多く出会ってもらえたらいいですね」(藤崎昭子)

住宅模型や人形、本の世界を立体的に再現 TSUTAYA中万々店(高知市)・山中由貴さん

TSUTAYA中万々店に展示されている模型=山中由貴さん提供

 はしごや布団まで再現されたツリーハウス、バケツ内の洗濯物まで設定通りにつくられた石積みの橋塔――。高知市のTSUTAYA中万々(なかまま)店では、精巧な建物模型が並び、訪れる人を楽しませている。同店の山中由貴さん(39)が、イラスト集『ものがたりの家―吉田誠治 美術設定集―』(パイ インターナショナル)から手作りで再現した。そのクオリティーは、著者本人から「完成度と熱量が凄(すご)い」とお墨付きをもらったほど。ツイッターでは「愛情が半端じゃない」と驚かれている。
 山中さんが「工作」に目覚めたのは、約1年前のこと。子どものころから折り紙など手先を使った遊びは好きだった。書店員となり、ポップを手書きするうちに「経験が蓄積された」。梨木香歩さんの児童書『ヤービの深い秋』(福音館書店)をきっかけに、フェルト人形や住宅模型、仕掛け絵本をつくり、立体的な売り場を展開するようになった。「いまでは平面のポップが物足りなくなりました」と笑う。
 イラストレーターの吉田誠治さんが手がけた『ものがたりの家』では、物語に出てきそうな架空の家や建物が描かれ、その設定が紹介されている。発注が遅れ、発売から店頭に並ぶまで約1カ月あったことから、山中さんは模型づくりを思い立った。製作過程をツイッターに投稿しながら、粘土や木材、糸などあらゆる素材を使い、休日を費やし、時には夜を徹して完成させた。
 「工作」を始めてから、ツイッターを見た県外からのお客さんが増えた。10月には吉田さん本人も来店し、作品の完成度に驚いていたという。「中万々店で売り場を展開することで、話題になったり、本が売れたりしたらうれしい。ここでディスプレーしてほしいと思ってもらえたら最高ですね」(興野優平)=朝日新聞2020年11月1日掲載

本に描かれた書店の模型。書架内に並ぶ本まで精巧に再現=山中由貴さん提供