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伊与原新さん「八月の銀の雪」インタビュー 地球の不思議と人生と、交わる瞬間

伊与原新さん

 地球惑星物理学の研究者から作家へ。伊与原新さんはそんな経歴の持ち主だ。新刊『八月の銀の雪』(新潮社)は、自然科学の知見を巧みに織り込んだ短編5編を収める。地球の核に降る雪やクジラの歌が、人生に行きづまった人の気持ちにぴたりと寄り添う瞬間を切り取ってみせた。

 居場所を見失ったサラリーマンと、帰巣本能の強いハト。失恋中の女性と珪藻(けいそう)。日常のある瞬間に化学反応が起きて、ふっと世界の見方が変わる。「できるだけシンプルに、淡々と書きたい。おおげさな表現は好きじゃないんです」

 もともとは富山大学で地磁気の研究をしていた。各地で岩石を採取し、磁性を測る。「わからないことばかりで、いつまでもゴールが見えない。地道な研究でした」

 実験の合間にミステリーを読みふけるうち、自分で思いついたアイデアを小説にするようになった。2010年、大震災で崩壊寸前に追い込まれた近未来の日本を舞台に描いた『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞、デビューした。『月まで三キロ』は人生に行きづまった男と月との不思議な関わりを書く表題作をはじめとした短編集で、昨年、新田次郎文学賞を受けた。その路線を継承する本作は、ままならない人生のほろ苦さが加わり、より味わいを増している。

 一方、より壮大な規模の物語を書いてみたいという。「短編では科学に忠実に書いたけれど、大きな話は、何か一つ大きなうそをついた方が面白くなる」(興野優平)=朝日新聞2020年11月4日掲載