「諏訪式。」書評 外からの刺激、受け入れる風土
評者: 宇野重規
/ 朝⽇新聞掲載:2020年11月28日
諏訪式。
著者:小倉 美惠子
出版社:亜紀書房
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784750516653
発売⽇: 2020/09/26
サイズ: 20cm/262p
諏訪式。 [著]小倉美恵子
小倉美恵子は『オオカミの護符』で、日本の伝統的な村落に存在した講と呼ばれる信仰に基づくネットワークの豊かさを、私たちに教えてくれた人だ。同時に川崎市北部の地域に根差して映画製作活動を行っている。その小倉が長野県の諏訪地方に着目したという。これは面白いはずと思い本を手にとった。
諏訪は、セイコーエプソンなど世界的な精密機械工業を生み出すと同時に、岩波書店、みすず書房など日本を代表する出版社の創設者を輩出した。その秘密は自主独立を旨とする「百姓」が、外から来た近代科学や学術を受け入れる一方、自らの地域や風土と向き合い、その両者を結びつけたことにある。
本書はさらに、アカデミズムに親しみつつ、自力で考え工夫し続けることの意味、土地に根差した文化や、ものの見方を持つ「軸足のある人」を、今こそ取り戻す必要があることを説く。コロナ危機以後の社会を考える上でも示唆的だ。