「ポルトガルの建築家 アルヴァロ・シザ」書評 動きを取り込む開口部の大切さ
ISBN: 9784761532604
発売⽇: 2020/09/03
サイズ: 21cm/411p
ポルトガルの建築家 アルヴァロ・シザ [著]伊藤廉
著者は、ポルトガルの建築家アルヴァロ・シザのもとで7年間修業した日本人建築家。巨匠シザが手がけた建築作品を、ポルトガルの歴史や文化もからめながら、背景にある文脈も含めて丁寧に紹介していく。
ミース賞を受賞した外観に曲線を取り込んだボルジェス&イルマォン銀行、リッチなドゥアルテ邸、ポルト大学……。20代の頃に設計した海辺の海水プール(レサのスイミングプール)は、海岸の岩をそのまま部分的に利用した作品で自然との一体感が醸し出され、水平線を強調した外観となっている。シザは「当初、満潮時に海水がプールに流れ込み、潮が引くとプールとして使える」ような設計案だったと語っている。
私は2001年に建築イベント参加のためポルトに滞在した際、作品を見学し、シザと長時間お話もした。シザとの会話では、欧州の辺地ポルトガルと、アジアの辺地日本の建築について、どちらも歴史や地域性をコンセプトに立ち上げているものが多いことに共通点を見いだした。土地に根ざした建築を作りたい、グローバル建築はありえないのではないか、という考えに同感だった。
本書には仕事中のシザの写真も掲載されているが、アトリエで、模型の中に顔を突っ込んで開口部を切ったり貼ったりすることに熱中していた様子が忘れられない。彼にとっては、内と外の関係を作る開口がこの上なく重要なのだと、その時知った。どの建築の開口も、動きや変化を取り込み、ゆっくり移行する身体性が感じられる。特に、本書にも収録されているマルコ・デ・カナヴェーゼスのサンタ・マリア教会は印象的で、横長に切り取った開口に感動した。座っていると空の雲が映像を見ているようにゆっくりと動く。立っていると教会にやってくる人の波がやはり映像のように動いてゆく。
本書には、シザの考え方の芯にあるものや飾らない素顔が織り込まれている。
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いとう・れん 1974年生まれ。建築家。ポルトガル在住。2004~11年にアルヴァロ・シザ事務所に勤務。