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手を合わせ、何を祈ろう? 湊かなえ

 私は今、幸せなのだな。

 しみじみとそう感じる出来事がありました。1973年生まれの私は来年「年女」です。そのため、ある文芸誌の企画で、神社にお参りしている写真を撮影してもらえることになりました。

 家族でも訪れたことがある有名な神社に早朝赴くと、それだけで心が洗われるような気分になります。

 おみくじを手にした写真を、ということで、早速一枚。前回のおみくじは娘の大学受験前だったな、と思い返したところで、ドキドキ具合がまるで違うことに気付きます。今回は吉が出ようが凶が出ようがどうでもいいかな、と。

 結果はそのどちらでもなく、和歌が一首あるだけでした。今のあなたに捧げる言葉、といったところでしょうか。注釈などもなく、この先、心に迷いが生じた時に意味を調べながら読んでみようと、撮影後、財布の中に大切にしまいました。

 順番が前後しているものの、撮影終了後、本殿にお参りさせてもらいました。以前、元旦に訪れた際は、神社の入り口からここに辿(たど)り着くまで、一時間くらいかかったのではないかとおぼしきところに、周囲に遠慮せず、自分一人で立つ贅沢(ぜいたく)感。鈴を鳴らすこともできます。二拝二拍手、両手を合わせ……。

 さて、何を祈ろう?

 自分を含め、家族、友人、周囲の人たちは概(おおむ)ね健康です。近く、試験に挑む人もいません。仕事はほどほどに順調、人間関係もそこそこに円満、個人レベルにおいて、大きく望むことがないのです。この状態を、幸せと呼ぶのかもしれない。

 これまでの自分は常に、手に届きそうな少し先にある何かを願い続けてきたけれど、少し足をとめて過ごしたこの一年、得ることだけが幸せではないと、ようやく気付くことができたということでしょうか。

 今の幸せに感謝して、この幸せが継続することを願い、例年より少し早い神社詣を、無事、終えることができました。皆様、よいお年を。=朝日新聞2020年12月16日掲載