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雑誌「旅と鉄道」 マニアック過ぎず、いい按配

「旅と鉄道」表紙

 この雑誌はいつからあるのだろう。私が学生だった1980年代にはもうあったのは間違いない。鉄道ファンというほどでもない私でも、その頃から時々買って読んでいた記憶がある。その後一度休刊になり版元が変わり復活したようだが、私の中ではもうバリバリの老舗である。

 旅雑誌も鉄道雑誌も多くあるなかで、とくにこの雑誌が好きな理由はなんだろうかと考えると、鉄道に詳しくはないけど鉄道で旅するのは大好きな自分にちょうどいいからだと思う。鉄道雑誌ほどマニアックじゃなく、業界人っぽい人が出てきてセンスのある旅をすすめてくるオシャレな雑誌とも違う。そういう雑誌は読み物としては面白いけれど、実際に旅の計画をたてるときにはあまり役に立たない。

 また誌面が広告に埋め尽くされていて読む気が失せるということもない。実にちょうどいい按配(あんばい)である。

 最新号の特集は『令和を走る夜行列車』。
 夜行列車と聞いて心がざわめいた。鉄道に詳しくなりたいわけではない私でも一応押さえておきたいテーマだ。

 昨今の夜行列車は高級志向のツアー列車が主流で、庶民の交通手段としての寝台列車は激減している。新幹線が全国にはりめぐらされたせいかと思うが、私が学生の頃は北海道内だけでも札幌から網走や釧路なんかに寝台列車が走っていたのである。それが今や定期運行しているのは「サンライズ出雲」もしくは「サンライズ瀬戸」という東京駅から出雲市駅、高松駅を結ぶ路線だけ。とても残念な状況だ。

 なので、他にどんな夜行列車が運行されているのか興味深く読んだ。「サンライズ出雲・瀬戸」以外はどれも期間限定で、その多くが夜通し走って発駅に戻ってくるという変則運行のようだ。夜行列車はどこかへ行くために乗るのではなくアトラクションのようなものになりつつある。寂しい話だが、それでも乗れる夜行列車を網羅してくれたのはありがたい。どれでもいいから乗りたくなった。

 特集以外の記事を見てみると、お正月の参詣(さんけい)鉄道の紹介、廃線・廃駅めぐり、アニメと鉄道、ねこと鉄道、名物鉄道員(ぽっぽや)の紹介、終着駅からの散歩など、全然奇をてらっておらず、誌面レイアウトも格別にかっこよさを狙っていないのがこの雑誌の好きなところ。穴場とか、本当は教えたくないとか、そういうマウンティングワードが踊っていないのも好感度大。私はひとつ上の旅なんか目指していないのだ。なぜなら、まだ行けてないところがたくさんあるのだから。=朝日新聞2021年1月6日掲載