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早世の詩人・村上昭夫、未発表95編が書籍に 自然と人を見つめ直す、透明なまなざし

村上昭夫=弟の成夫さん提供

 《雁(かり)の声を聞いた 雁の渡ってゆく声は あの涯(はて)のない宇宙の涯の深さと おんなじだ/私は治らない病気を持っているから それで 雁の声が聞こえるのだ》(「雁の声」から)

 生前唯一の詩集『動物哀歌』には、種々の動物と自らの姿を重ね、かつ広大な宇宙に思いをはせる村上の透明なまなざしが満ちる。

 岩手県の現・一関市に生まれた村上は戦争末期に旧満州へ渡り、終戦の翌年に帰国。50年に結核を発病した後も詩や小説を精力的に発表し続け、同詩集でH氏賞などを受賞して周囲の期待を集めたが、その直後に病で亡くなった。

 同県出身の詩人である北畑光男さんは学生時代に村上の詩と出会い、感銘を受けた。それから半世紀にわたり、研究誌の作成や講演の場などを通じて、村上の顕彰に努めてきた。

 村上の資料を探していた北畑さんは数年前、彼の弟である成夫(しげお)さん(79)とともに、日本現代詩歌文学館(同県北上市)を訪ねた。そこでは、『動物哀歌』に収められていない95編の直筆原稿が保管されていることが確認できた。

 北畑さんは2018年に『村上昭夫著作集 上』(コールサック社)として、村上の小説や俳句などを集めたものを刊行。今回の下巻で『動物哀歌』所収の作品と共に、未発表の95編を収録した。これらが書籍としてまとまって世に出るのは、初めてのことだという。

 《空を見れば空しかない 空と話をして空と笑って ああ いいなあ 空のなかには空しかない》(「空」)

 結核を患い療養所で過ごした日々、そこの人々や光景……。青年時代につづられたという未発表作品からは、若き詩人の足跡が浮かぶ。北畑さんは「作品として未熟なところがあるかも知れないが、その分親しみやすくもあり、村上の詩世界に至る架け橋のような意味があるのではないか」と話す。

 《ふたつにさける世界のために 私はせめて億年のちの人々に向って話そう ねずみは苦しむものだと ねずみは血を吐くものなのだと/一匹のねずみが愛されない限り 世界の半分は 愛されないのだと》(「ねずみ」から)

 出口の見えないコロナ禍の中で、他者との分断や人間のおごり、様々な問題が露呈した。村上の詩が今こうして再び光を浴びるのには意味があると、成夫さんは語る。「『動物哀歌』は詩集という形をとった、現代への警告の書であるように思える。兄の詩を通じて、読む人が何かを感じてくれればと願っている」(山本悠理)=朝日新聞2021年1月20日掲載