自分はスマホ中毒かも――、そんな不安を感じませんか。
精神的不調の訴えが増えたのに疑問を持った精神科医である著者は、脳科学の研究成果をもとに「人間の脳はデジタル社会に適応していない」と説く。
人類は大半の時代、常に周囲を確認して危険を避け、新しい場所を探して食物を得てきた。それに適して形成された脳は、新しいものへの欲求があり、現代では知識や情報を求め「クリックが大好き」につながる。
スマホなしの影響を調べようと学生千人を集めた調査は、半数以上が中断してしまった。その理由は「禁断症状」。「いいね」といったデジタルのご褒美は、脳にとっては賭け事と同様だという。開発側は行動科学や脳科学の専門家を雇い、心の脆弱(ぜいじゃく)性を利用し、「私たちの脳のハッキングに成功」。しかもデジタル軍拡競争は激しさを増す。IT企業のトップが自分の子をデジタル機器から遠ざけたのは有名な話だ。酒の年齢規制はあっても、スマホにはない。
具体的な指摘は、思い当たることもあるはずだ。
自分と見比べる相手が飛躍的に増え、若者たちはSNS利用後に自分の容姿や魅力に不満を感じる。講義ノートをパソコンで取るよりも手書きの方が内容をよく理解していたという米国の研究。記者会見でパソコンを打ち続けた自分を振り返る。
本書が売れるのは、教育現場へのデジタルの拡大で影響に関心が高まったからのようだ。似た本もあるなか、比較的手軽なのも理由かも知れない。デジタルで気を散らされつづけ、著者自身「本を集中して読むことが難しくなった」と述べている。
では、どうすればいいのか。
著者はデジタル時代のアドバイスを列記する。自分のスマホ利用時間を知る、目覚まし時計と腕時計を買う、表示をモノクロにする……。正義のようにデジタル化による改革(DX)が振りかざされ、デジタルと無縁ではいられない現代、頭の劣化を少しでも防ぐための忠言だ。=朝日新聞2021年1月23日掲載
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久山(くやま)葉子訳、新潮新書・1078円=8刷22万部。2020年11月刊。教育へのスマホの悪影響を説く内容に、親世代から反応。