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もとしたいづみさんの絵本「すっぽんぽんのすけ」 誰からも尊敬される、すっぽんぽんのヒーロー誕生

文:日下淳子、写真:本人提供

生まれたままの姿で、のびのびと

――「おふろあがりは はだかがいちばん」と、すっぽんぽんのまま走り出す男の子。生まれたままの姿で道行くだけで、悪者たちは逃げ出し、おじさんがジュースを差し出す。なんとも痛快で自由奔放なお話が『すっぽんぽんのすけ』(鈴木出版)だ。著者のもとしたいづみさんに、シリーズ1作目の制作当時のお話をうかがった。

 きっかけは、年少向けの月刊誌に絵本をお願いされたことです。そこで、はだかで飛び回っている意気がいい子どもを描きたいと思いました。そもそも人間って、すっぽんぽんで生まれてくるでしょう。お母さんの羊水でぷかぷかしていたのが、出てきた途端に、産着を着せられ、おむつを履かされて、ある意味不自由ですよね。

 子どもってもっとのびのびしていて、柔軟な動きができるのに、どこに行くか、何を食べるかも、全部大人に決められてしまう。その不自由な感じを、全部逆転させたいと思ったんです。せめて絵本の中だけでものびのびして、誰からも尊敬されて、正義のヒーローになる、そんな子どもを描きたいと思いました。

『すっぽんぽんのすけ』(鈴木出版)より

 絵本ができるまで、ずいぶん時間がかかったんですよ。この絵本を作った当時、「年少にストーリーのあるものは難しすぎる」と言われていました。まだかけだしだったので、そうなのかなと一度は引き下がったのですが、ちょうどその頃、娘が2歳になったんです。いや2歳でもけっこうストーリーはわかるよなと思って、担当の方と話したら「じゃあこれでいきましょう」となりました。

 でもその後に担当が変わったり、編集会議で難色を示されたりしてそのたびに直していました。ただ最後の担当さんに「それで最終的にどうなったんですっけ?」と言われたので、しれっと一番最初の原稿を出したら、通ってしまったんですよ!(笑)

――絵を担当したのは、荒井良二さん。のびのびとしたタッチで描く荒井さんの絵は、すっぽんぽんのすけの自由さそのもの。表紙にははだかでいたずらっぽく笑う男の子、つけるのはちょんまげだけ、パンツもはかずに新幹線より高速で走り、忍者も恐れずつき進む。もとしたさんも、荒井さんの絵を楽しみながら作り上げていったという。

『すっぽんぽんのすけ』(鈴木出版)より

 荒井良二さんとは、1冊目を作るときは初対面でしたが、「てくてく座」という絵本作家が集まった文士劇団でご一緒して、ばかばかしいことしながらドサまわりをした仲です。彼はこちらの求めているものをしっかり汲んでくれて、その期待を上回る絵をあげてきてくれるので、楽しみでした。

 ただ、確実に〆切を守らないこともわかっていたので、みんなでヤキモキしましたね。でき上がったというので、編集者さんと喫茶店で待っていてもいっこうに来ない。やっと来たと思ったら、その絵がガチガチに梱包してあって開くのにもひと苦労なんてこともありました。忙しいときは、ラフに「本番はもっとうまく描くでしょう」なんて書いてあったことも。でもいろんな遊びがちりばめられていて、ここに描いてある人は知り合いのあの人だよね、なんて楽しみがたくさんありましたね。

歌や体操、DVD、児童書も

――お話からさまざまな遊び心を広げることを、荒井さんももとしたさんも楽しんでいる。もとしたさんは文章だけでなく、読み聞かせをしたり、歌や体操まで作ってしまう。続編の『すっぽんぽんのすけ せんとうへいくのまき』では、巻頭に「すっぽんぽんのすけのテーマソング」の楽譜が掲載されている。

 イベントで『すっぽんぽんのすけ』の読み聞かせをしたことがあったんです。荒井さんもゲストに呼んだのですが、忙しい方なので当日まで来てくれるかわからないから、宿題を出したんですよ。私が詞を書いてピアノの弾き語りをするから、荒井さんはギターで弾き語りしてねって。そうしたら、本当にギターを持ってきてくれたんですよ。人気のある荒井さんがジャラランとすると、お母さんたちが「まあ、素敵!」って浮き足立ってね(笑)。そのときに作った曲を、絵本を作るときにのせました。

 「すっぽんぽんのすけ」は、DVD(うごくえほんチルビー)も出たんですよ。DVDが出ると絵本が売れなくなるんじゃないかと思ったんですが、打ち合わせに行ったら、朗読する声の役まで引き受けてしまいました。その頃、活動弁士(サイレント映画を上映しながら、その内容を声で解説する人)をすることにはまっていたんです。声を誰に頼むかという段になって、活動弁士のように「こんな感じで」って読み聞かせたら、「もとしたさんが声をやりませんか?」って言われて、そのままDVDを出すことになりました。

 自分の子どもが通っている園や小学校でも、保護者が読み聞かせを行う機会があったんですが、私は自分の絵本しか読みませんでした(笑)。『すっぽんぽんのすけ』のときは、必ずちょんまげを持っていって、紙袋を子どもたちに見せて「この中に何が入っていると思う? ヒントは『ち』がつきます」なんて言うんです。たいてい子どもたちもふざけたことを言って、見れば「かぶらせて!」と言ってきます。それで、ちょんまげをかぶって読み聞かせをすると盛り上がるんですよ。本当はリモコン付きのちょんまげが欲しかったのに、廃番になっていて残念でした。

――「すっぽんぽんのすけ」シリーズは絵本を3冊刊行した後、読みものとして『すっぽんぽんのすけ ひかる石のひみつ』も制作した。もう少し話は複雑になり、文章は多くなったが、絵本と同じく、やっぱり子どもがすっぽんぽんになって大活躍するお話。名前も「はだ かんたろう」なのだから、笑ってしまう。

 絵本で『すっぽんぽんのすけ』を知ってくれた人が、小学生ぐらいになって読んでくれたらいいなと思っています。少し時間があいてしまったので、挿絵を描いてくれた荒井さんに「絵本とは全然違う絵になるけどいい?」と言われたんですが、この2色の荒井さんの絵も素晴らしいです。低学年の本は、男の子向けの本が少ないので、ぜひ手に取ってもらえたらと思います。

 いまはコロナ禍で、子どもたちにとっても気の毒な時代でしょう。ずっとマスクをつけないといけない、遊ぶときに大声を出してはいけない。本当はいろんな体験をしてほしいけれど、本の中だけでも普段行けないところに行ったり、体験できないことをしたり、こんな悪者にもなってしまう自分を感じたりしてくれたらいいなと思います。そういう楽しみを知って、本が好きになってくれたら嬉しいですね。