下着の業界専門誌の記者を経て、30歳でフリーに。外から見えない服の変遷を約40年間追ってきた。
家でくつろぐ時や眠る時に着るものを「ホームウエア」とくくり、その製造側の歴史を長年の取材をふまえてまとめた。戦後のネグリジェから現代の機能性重視の素材の話題まで柔らかくつづる。「この分野の資料は服飾関係の図書館でも乏しかった。執筆心に火がつきました」
若いころから周縁的なものにひかれてきた。「ホームウエアは素に戻る時に着る服で、外着と違って社会的な縛りがない。あいまいで自由なところが好きなんです」
取材時の白いジャカードの上着はホームウエアだ。服飾全体でも、外着と家で着る服の境界はあいまいになる一方という。
ファッションが文化を牽引(けんいん)した1980年代の描写に熱がこもる。若い女性たちが興した部屋着のブランドが独特の存在感を放ち、海外ブランドとライセンス契約を結んだ商品も勢いがあった。
クリスチャン・ディオールの国内生産商品に携わったデザイナーの話は印象的だ。欧州ではパジャマの第一ボタンは胸が自然にこぼれる位置が美しいとされるが、日本では胸元は隠すのが好まれる。パリの本部からの資料を基にそうした文化的な溝を埋めてデザインしたが、毎回、本部の承認を得るのには苦労した。それでも彼女は、素材も縫製も世界観も「あのクオリティの商品はもう二度と出来ないかも」と懐かしむ。繊維製品はまだ国内生産が主流だった。当時の職人魂がにじむ。
今も毎年、パリの見本市に出かけて定点観測を続ける。「衣服はさらに合理化が進むと思うが、オンがあってこそのオフ。ホームウエアがもう一つの衣服、もう一つの選択肢であり続ける世の中であってほしい」(文・加来由子 写真・篠塚ようこ)=朝日新聞2021年5月1日掲載