1. HOME
  2. 書評
  3. 「狩猟に生きる男たち・女たち」書評 「わが身と引き換え」の覚悟説く

「狩猟に生きる男たち・女たち」書評 「わが身と引き換え」の覚悟説く

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年05月08日
狩猟に生きる男たち・女たち 狩る、食う、そして自然と結ばれる 著者:高桑 信一 出版社:つり人社 ジャンル:動物学

ISBN: 9784864473699
発売⽇: 2021/03/27
サイズ: 19cm/351p

「狩猟に生きる男たち・女たち」 [著]高桑信一

 この本は「現代マタギ考」というタイトルの雑誌連載がもとになっている。本来、マタギは東北地方の山間に住む狩人の群れを指す言葉だが、いまや狩猟を生業とする職業猟師はほとんどいない。では、いまも狩猟をしているのはどんな人たちなのか。
 山里の暮らしを取材してきた著者は、日本各地でカモ、鹿、イノシシ、熊などの狩猟に同行し、猟師たちの世界に足を踏み入れる。
 環境省の資料では、狩猟免許を持つ人は1980年の約46万人から、2016年は約20万人と半減した。
 だが、登場する現代のマタギの姿は、実に多様だ。家族で食べる肉を求めて山に入る父親と、獲物の鹿を見事にさばく小学生。都内のデザイン会社に勤め、休日は銃をかついで山に入る若い女性。84歳にして年間100頭近いイノシシを捕獲する猟師。
 集団で行う猟では、トランシーバーで獲物の動きを伝え合いながら、何時間も山中で息を潜める。そして稜線(りょうせん)に響き渡る銃声が、勝負の終了を告げる。
 一方の罠(わな)猟は、人間と動物との知恵比べだ。猟師は、動物が遊んだ場所か生活道かまで見分ける。動物はかすかな人間の臭いをかぎ取り、ベテラン猟師はせっけんを使わない。
 動物と人間との真剣勝負は、いまも昔も同じだ。勝負を制して得た獲物の皮を剝ぎ、肉をさばき、命を食す。その一連の行為の崇高さが、人を山へと向かわせる。
 ただ、現代のマタギは古来のマタギと本質的に異なる点がある。生きるための猟が消え、人家や農作物に被害を与える動物の駆除の役目を負ったことだ。狩猟がスポーツとさえ思われているいま、著者はあえて釘を刺す。「わが身と引き換えにしてもいいという覚悟のもとにこれを斃(たお)すのが猟というものだ」と。
 人と動物が交差する山里から、命あるものを殺して食べる重みと意味を考えさせてくれる一冊だ
    ◇
たかくわ・しんいち 1949年生まれ。文筆家、登山家。著書に『山小屋からの贈りもの』『渓(たに)をわたる風』など。