ISBN: 9784794972620
発売⽇: 2021/05/12
サイズ: 19cm/214p
「私がフェミニズムを知らなかった頃」 [著]小林エリコ
小林エリコは自身の生きづらさについて書き続けている作家だ。本書の他にも『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)『家族、捨ててもいいですか? 一緒に生きていく人は自分で決める』(大和書房)『わたしはなにも悪くない』(晶文社)などを出版している。いじめられっ子だったこと、自殺未遂を繰り返してきたこと、精神障害者としてデイケア施設に通っていたこと、生活保護を受けていたこと……とにかく「重い」話なのだが、抑制の効いた筆致のせいか、するすると読めてしまう。
本作も基本的に彼女の過去を綴(つづ)ったものだが、全エピソードが「フェミニズム」という背骨によって貫かれている点に新規性がある。
かつての小林は「世の中が男女平等だと1ミリも疑っていなかった」という。なぜなら「日本国憲法で法の下に国民は平等であると学校で習った」から。家族から性的虐待を受けても、塾講師におっぱいを触られても、交際相手にやたらとセックスを求められても、なかなかノーが言えず、やっとノーが言えたところで、ちゃんと聞き入れてはもらえなかった。だが男女平等を信じる彼女は、それらが男たちの女性差別的な考えに起因しているとは露ほども思わなかった。だから個人的な出来事としてのみ込むしかなかった。
ところが上野千鶴子『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(朝日新聞出版)との出会いによって彼女の認識は大きく変わった。あの理不尽にもこの怒りにも理由があったのであり、個人的なことなんかじゃなかったのだ。それを知る前と後では、世界の見え方ががらりと変わる。彼女がしたのはそういう経験だ。
フェミニズムがもたらした小林の「覚醒」を読者が共有するとき、相変わらず理不尽な世の中に一筋の光が差す。私たちは知ることで強くなれるし、前に進める。そう信じられる本だ。
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こばやし・えりこ 1977年生まれ。NPO法人の事務員として働きながら漫画家としても活動している。